第130回
CMB偏光観測実験GroundBIRD
本多 俊介 氏
筑波大学
要旨
宇宙の進化にともなって旅をしてきたビッグバンの残光「宇宙マイクロ波背景放射」(CMB)には138 億年の歴史が刻印されている。CMBにわずかに現れる揺らぎのパターンを精査して引き出された数々の情報は,われわれのもつ宇宙の描像を劇的に更新してきた。現在,CMB偏光揺らぎのパターンを詳細に観測する研究が大きな注目を集めている。インフレーション宇宙論の証拠となる原始重力波の発見やニュートリノ質量和の初測定など,偏光観測で得られる前人未到の成果を目指して,たくさんの研究グループがしのぎを削っている。その中でも,国産のCMB地上観測実験GroundBIRDは,常軌を逸する回転速度で空を観測し,これまで地上では達成しえなかった広天域なCMB偏光観測を実現する野心的なプロジェクトである。GroundBIRDでは,大角度領域にまたがるEモード偏光パターン強度を3年間観測し,宇宙再電離期の光学的厚みを測定する。このパラメータはニュートリノ質量和と強い相関を持っており,独立に宇宙再電離期の光学的厚みを測定することによって,ニュートリノ質量和の決定精度を向上させる。今回はCMB偏光観測の概要とGroundBIRD望遠鏡の紹介,宇宙再電離期の光学的厚み測定に向けた研究内容を紹介する。 図:「CMB偏光観測実験GroundBIRDのファーストライト」 Vol.38 No.4 2020/01.02.03, 高エネルギーニュース