第82回
ダークマターの存在は「渦巻銀河の回転曲線が星やガスの物質分布から想定されるモデル曲線では全く説明できない」という事実から指摘されてきた。あいにくダークマターの空間分布については,信頼に足る情報が少ない。というわけで,球対称分布モデルを仮定することが常であるが,はたして,これは正しい方向であろうか?ダークマターがダークであるとは,重力相互作用のみによって通常物質とかかわりを持つことを意味する。ならば,渦巻銀河のように平たい通常物質と共存するダークマターが球対称のままで存在するというのは,理屈が通らない。 一方,ダークマターが球対称で通常物質よりはるかに重いとすると,渦巻銀河がたとえ一瞬でも平たい形状を保てるという現象は力学的に見て不思議である。この疑問を解く手掛かりを得るために,無限に薄く軸対称ではあるが任意の表面質量密度分布を持つ物体のニュートン重力場を計算する手法を考案した。新手法は(1)重力ポテンシャルについては,環ポテンシャルの合成積分表現を二重指数関数公式を用いた分離積分法で計算し,(2)重力加速度ベクトル場については,数値積分して得られたポテンシャルをRidderの方法により数値微分して求める。この方法で,詳細な回転曲線データが得られている渦巻銀河M33について,表面質量密度分布を二重べき関数モデルと仮定して回転曲線のあてはめを行ったことろ,ダークマター分布を球対称Navarro-Frenk-Whiteモデルとする通常の分解法より良い結果が得られた。.(参考文献 T. Fukushima, 2016,MNRAS, 456, 3702)