つくば宇宙フォーラム

第54

太陽系外惑星の直接観測に向けたバイナリ瞳マスク・コロナグラフの開発

櫨 香奈恵 氏

JAXA


要旨

惑星系の形成過程や多様性を系統的に理解するにあたって,系外惑星の直接観測は重要な手段である。 そこで障壁となるのは,主星光と惑星光の極めて大きなコントラストである。 例えば太陽系を外部から観測した場合,主星・惑星間のコントラストは可視域では~10 桁もあり,惑星からの熱放射が卓越する中間赤外域でも~6 桁である。 このような高コントラスト観測には,コロナグラフという,惑星位置における主星光を選択的に低減する光学系が有効である。 我々は現在,次世代赤外線天文衛星SPICA にも搭載予定のバイナリ瞳マスク方式のコロナグラフを研究している。 この方式は,原理的に指向性擾乱に強く,波長によらず効くという性質を備えている。

バイナリ瞳マスク方式の1つであるチェッカーボード型のマスクを用いた可視光域でのコロナグラフ原理実証においては,実験における誤差要因を徹底的に低減し,星像差分法を適用した結果,コロナグラフ単体での世界最高水準のコントラスト(1.3×10^{-9} ) に到達した。 また可視光での多波長・広帯域実験により,バイナリ瞳マスク方式のコロナグラフが原理的に波長によらず効くことを実証した。 そのほか,赤外波長域での実用化に向け,基板を用いない自立型瞳マスクの製作および 性能実証,実証実験における誤差要因としての波面誤差をシミュレーションで再現して考察する方法を確立した。

さらに,これまでの成果をふまえ,コロナグラフの大敵である,望遠鏡の副鏡等による瞳遮蔽の影響を回避した,より実際的な自立型瞳マスクの概念を実証した。 これらの成果は,コロナグラフ単体のコントラストとして世界最高水準にあるのみならず,より実際の観測に即した実証であるという点で重要である。