第23回
南極ドームふじ基地における電波天文学
筑波大学 宇宙観測研究室
要旨
近年の技術発展で,テラヘルツ帯での天体観測が現実的となってきた。ところが,大気中の水蒸気と酸素の強い吸収のため地上からの観測は困難である。マウナケア山頂やチリ北部の砂漠地帯が観測サイトとし開拓されてきたが,十分な観測条件は得られていない。南極ドームふじ基地は,南極大陸沿岸の昭和基地から 1000km内陸に位置し,低温(最低気温マイナス80度)な高地(標高3810m)であり,地上における最良のテラヘルツ帯の天体観測サイトと 期待されている。我々は,ドームふじに10mクラスのテラヘルツ望遠鏡を設置す る計画を進めている。2006年には第48次南極観測隊にサイト調査を委託し,ドームふじの大気透過率が予想と違わず良好(220GHz光学的厚み:0.045)で安定していることを示した。条件の悪い季節(夏)にも関わらず,チリの砂漠地帯の最良期と同等である。2010年の第51次南極観測隊には瀬田が同行し,行程の都合で5日間という短期間ではあったが,良好な透過率を再確認した。また,大井埠頭での物資の観測船しらせへの積み込みから,ドームふじへの3週間の雪上車での輸送に至るまで全輸送行程を調査した。内陸への出発拠点S16への荷揚げ時の重量制限,みずほ基地から中継拠点への悪路(サツルギ帯)への対応が輸送時の課題である。 2012年には,南極ドームふじにおいて,30cmのプロトタイプ望遠鏡による天体観測の実現を目指している。さらに,10mテラヘルツ望遠鏡実現への次のステップとして,1.2m鏡の開発を始めている。宇宙フォーラムでは,ドームふじのサイト調査の主要な結果から,今後の天体観測計画までを紹介する。