第21回
天体起源の宇宙線電子・陽電子について
KEK
要旨
系内の宇宙線陽電子は,標準モデルでは超新星残骸などにおいて加速された宇宙線陽子が星間物質と反応することによって生成されると考えられていた。ところが最近,PAMELAの観測により10GeV以上の陽電子フラックスが標準モデルに比べて超過していることが確認された。また,ATIC, PPB-BETS, H.E.S.S., Fermiなどの観測により,10-600GeVのエネルギー領域において電子・陽電子フラックスがやはり標準モデルの予測値を超えていることが示されている。このことは系内に何か別の電子・陽電子源が存在していることを強く示唆している。これまでにその候補としては大きく分けて(1)ダークマター粒子の対消滅または崩壊(2)パルサーなどの高エネルギー天体からの放射の2種類が議論されているが未だに決着はついておらず,高エネルギー天体物理のみならず素粒子物理をも巻き込む大論争が今も続いている。我々は天体起源説に則り,系内にある単独もしくは複数の天体から放射される電子・陽電子がどのようなスペクトルで観測されるかを計算によって示し,現在までの観測で得られているモデルへの制限,さらに将来のさらに高エネルギー(~TeV以上)の観測によって天体起源説が裏付けられる可能性について議論した。今回は天体起源モデルの簡単な紹介とともに最近の我々の研究について詳説する。