つくば宇宙フォーラム

第155

宇宙大規模構造からの降着が引き起こす超大質量星・ブラックホール形成

喜友名 正樹 氏

東北大学


要旨
超大質量ブラックホール(SMBH)は,10^6-10 太陽質量(Msun)の超巨大ブラックホールである。これらは銀河の中心に普遍的に存在することが知られ,このような大質量天体をどう形成するかは未解決問題である。特に近年のジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測により宇宙誕生5億年の時点で質量10^8MsunのSMBHの存在が示唆されている。これを説明するにはSMBHを短期間で形成する必要があり,問題はより困難になっている。この問題を解決する有力仮説の一つは,宇宙初期特有の環境で10^5Msunの超大質量星が形成されるという説で,これが形成されればBHに崩壊してガス降着でSMBHへ成長可能というものである。ただし,従来の理論モデルでは,初期宇宙の中でもまれな環境でのみ超大質量星形成が可能で,近年示唆されるのSMBHの数の多さを説明困難であった。我々は,宇宙構造形成にともなう"cold accretion"現象に着目した。宇宙論的流体シミュレーションで初期宇宙の構造形成・銀河形成を計算し,このcold accretionの振舞いを詳細に解析した。結果から,cold accretionは初期宇宙で普遍的に起こることを示し,またこの効果でハローの中心に10^5Msunの超大質量星が形成されることを示した。これらの結果は初期宇宙におけるcold accretionの重要性を強調し,従来形成が困難(まれな環境が必要)と考えられていた10^5MsunのBHが,初期宇宙環境では容易に(普遍的に)形成できる可能性を示唆し,SMBH形成問題への糸口となり得る。


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