つくば宇宙フォーラム

第144

すばる広視野サーベイとJWSTで見えてきた遠方超巨大ブラックホールの初期成長

尾上 匡房 氏

東京大学 Kavli IPMU


要旨
ビッグバン後10億年未満の初期宇宙に存在する活動的な超巨大ブラックホール(=クェーサー)の初期成長の様子について,主にすばる望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使った最新の観測成果について紹介する。遠方クェーサーの探査は2000年代のSloan Digital Sky Surveyを皮切りに活発に行われており,これまで300を超える数が報告されている。しかし,これらはサーベイ観測の深さによって初期宇宙で最も明るい(=最も重く,活動性が高い)種族にバイアスされている。また,明るいクェーサーに隠れた母銀河を検出することは容易ではない。2014年より開始したすばる望遠鏡のHyper Suprime-Cam (HSC)による広視野サーベイは,地上最大級である8m級望遠鏡のすばるを広視野サーベイに活用することにより,従来より10倍程度暗い天体まで探査することのできる,世界的にみても競争力の高いプロジェクトである。本プロジェクトによって発見された比較的低光度のクェーサーを使うことにより,初期宇宙での超巨大ブラックホールの質量分布,エディントン比分布を制限する試みが進んでいる。我々の研究チームはJWSTの第一期,第二期の観測時間を獲得しており,ブラックホール質量測定,母銀河検出,そして遠方宇宙における銀河質量とブラックホール質量の関係を制限することを目指している。特にJWST観測の最初のターゲットから,世界で初めて赤方偏移6においてクェーサー母銀河の星成分の検出に成功した。本講演では,まず遠方クェーサー探査の概観から,HSCクェーサーのJWST追観測の最新成果,また時間が許せば自身が関わるその他のJWST観測の成果についても紹介したい。 Image