銀河の形成・進化を議論するにあたり,銀河間空間との物質循環(ガスの流入と流出)がどのように起きているかは本質的な情報である。遠方天体を背景光源としてそのスペクトル中吸収線を観測することは銀河間物質(IGM)を調べる古典的な手法であるが,近年では背景光源として銀河を使うことで空間分解能を上げてIGMの空間分布を調べられるようになった(IGM tomography; Lee et al. 2018 など)。空間分解能を上げることにより銀河周辺物質(CGM)スケールまで調べられるようになった(Adelberger et al. 2005; Prochaska et al. 2014; Mukae et al. 2020 など)。使われる吸収線は 中性水素(HI)Lya から CIV, MgII といった金属吸収線まで多岐に渡るが,観測的制約から遠方宇宙で空間分解して調べられている吸収線はいまだに限られている。またIGM/CGMの性質が大スケールの密度環境によってどのように変わるかといったことも未解明である。本講演ではこうした分野の動向について概観したのち,自身が深く関わっている遠方原始銀河団に対するIGMトモグラフィープロジェクト(SSA22-HIT)の結果について紹介する。SSA22-HITプロジェクトにおいて,我々は赤方偏移3.1の顕著に大きなサイズのSSA22原始銀河団領域に対するKeck/DEIMOSによる深い分光観測を行い,また同領域で過去に行われた分光データを集約することで広視野かつ高天体密度の高赤方偏移銀河カタログを構築した(Mawatari et al. 2023)。銀河スペクトルから HI Lya 吸収線の抽出を行い,原始銀河団を含む2.7 < z < 3.6 の赤方偏移範囲にわたるHIトモグラフィーマップを描き出した(Mawatari et al. in prep.)。その結果,銀河とHI Lya吸収量の間にはIGMスケールで相関があることがわかっただけでなく,原始銀河団において個々の銀河に付随したHIガスとは別の成分(Intra-ProtoCluster Medium; IPCM)の存在が示唆された。また銀河種族に対するCGMスケールのHI空間分布についても調べたので,これまでの結果を報告する(Mawatari et al. in prep.)。