第135回
高解像度サブミリ波観測が描く活動銀河中心核の新描像
国立天文台
要旨
活動銀河中心核(Active Galactic Nucleus = AGN)とは,超巨大ブラックホール (supermassive black hole = SMBH) への質量降着に伴い解放された重力エネルギーで明るく輝く天体現象であり,ブラックホール成長の「現場」を理解するための重要な研究対象である。近年,世界最高性能のサブミリ波干渉計Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA)の登場により,AGN周辺物質の諸性質を高感度かつ高解像度で観測的に研究することが可能となった。本講演では,我々チームがこれまで(主に近傍宇宙のAGNに対して)行なってきた一連の観測研究を概観する。特に,銀河中心の~100 pcスケールに存在する高密度ガス円盤(circumnuclear disk = CND) とそれ以内の領域については,我々は多くの先駆的研究を行なってきた。たとえば,(i) CNDがSMBH成長の直接的な質量供給源になっていること,(ii) AGNの強力なX線放射でCNDスケールのガスの物理的・化学的組成が変化していること,(iii) AGN放射が駆動する多相星間物質(分子,原子,プラズマ)の複雑な力学構造がAGNトーラスと呼ばれる中心核遮蔽現象を引き起こすこと,を明らかにした。さらに,(iv) 最新研究では,ついにAGN中心の1 pc以内にまで迫る高解像度を達成し,SMBHへの降着流の直接検出ならびにその定量的評価をするに至った。これらの研究成果にふれつつ,さらに本講演では,我々が計画しているJames Webb Space Telescope (JWST) 衛星を用いた観測(Cycle 2提案が採択済)や,多相星間物質に対するさらなる高解像度観測(ALMA Cycle 9に採択済/Cycle 10に提案済)等の,一連の研究案も紹介し,今後の戦略を議論する。