第131回
分子雲における星形成フィラメントの形成と進化
名古屋大学
要旨
星は分子雲中の高密度領域で形成されるが,その高密度領域がフィラメント状であることがわかっている。フィラメントの形成と進化は星形成の初期条件を決定するため重要である。本発表ではフィラメント形成・進化についての我々の研究成果を報告する。 分子雲を通過する衝撃波がそのフィラメントの形成を誘発することがわかっている。ところがフィラメントの形成機構には複数の理論が乱立しており,理解されたとは言えなかった。本研究では乱立している形成理論を整理するために,衝撃波と分子雲の相互作用を模擬するような3次元磁気流体シミュレーションを多岐にわたるパラメータで実行し,各パラメータでのフィラメント形成機構を特定した。その結果,衝撃波の速度に依存してフィラメント形成機構が変化することがわかり,形成機構を統一的に理解することに成功した。さらに形成されたフィラメントの線密度を測定したところ,速い衝撃波($\gtrsim 5 km/s$)で駆動されるフィラメント形成では大質量星形成の初期条件が自然に実現可能であることがわかった。 フィラメントは,その形成機構を鑑みると磁場に沿ったガス流によって進化する。フィラメントの幅は星形成開始条件や星の質量を決めうる重要な量であり,進化過程で幅が決定されると考えられる。観測からフィラメントの幅は線密度によらず 0.1 pc であることがわかっている。ところが,理論的には幅は高密度なものほど小さいはずであり,観測事実と矛盾する。フィラメント境界は多くの場合"スローショック"になると考えられる。スローショックの波面は不安定であり,フィラメント内に乱流を駆動し重力収縮を遅らせるための運動エネルギー供給が期待される。またフィラメントのスケールでは両極性拡散が効くためこれを考慮に入れる必要がある。本研究ではフィラメントの幅の普遍性を説明することを目標とし,まず両極性拡散入りのスローショック不安定性で乱流生成が起こるかを非理想MHDシミュレーションを用いて調べた。両極性拡散入りのスローショック不安定性の非線形発展の結果,大質量フィラメントの幅を大きくするような乱流駆動機構を発見した。