第118回
宇宙が加速膨張している事が観測から確認されており、これを説明する理論としてダークエネルギーや、修正重力理論が提唱されているが、未だ明確にはわかっていない。これらの理論モデルの違いは、大スケールの物質の密度ゆらぎの大きさや時間進化に表れる。従って宇宙の大規模構造の観測から、理論モデルへの制限を与えることができる。本研究では中性水素から放出される21-cm線を用いた大規模構造の探査による宇宙論解析に着目した。21-cm線の赤方偏移は周波数から測定することができるため、従来の観測よりも過去からの時間発展を議論することが可能となる。ただし、中性水素の割合の時間進化や空間分布には紫外線背景放射や銀河からのフィードバックなどの複雑な天体物理過程が寄与しているため、解析的に計算することが難しい。
そこで本研究ではまず中規模(75Mpc/h)の宇宙論的流体シミュレーションを用いて中性水素のパワースペクトルを測定し、銀河観測に用いられている理論モデルで記述できるか検証を行った。続いてバリオン音響振動などの大スケールの統計量を議論するためには、より大きなボックスサイズが必要となる。しかし大規模かつ高分解能の宇宙論的流体シミュレーションは計算コストが非常に高くなる。そこで本研究ではN体シミュレーションから中性水素の分布を得る新たな方法を提案した。この方法では、ダークマターハローとその近傍のダークマターの密度場のみを用い、定数倍することによって中性水素の密度場とする。本発表の後半ではこの手法とその結果について紹介する。