第114回
宇宙大規模構造の観測によって、宇宙論や銀河形成、宇宙再電離現象などに制限を与えることができる。輝線インテンシティマッピングと呼ばれる比較的新しい観測手法では、輝線や吸収線強度の空間的なゆらぎを観測することで、広領域にわたる銀河や銀河間ガスの3次元分布を得ることができる。例えば、2023年に打ち上げ予定の NASA の SPHEREx 望遠鏡では、z = 0-6 の輝線銀河の分布が 200 平方度にわたって観測される。しかし、こうした観測では特定の観測波長に複数の輝線の寄与が混在してしまうという問題があり、これらの分離が課題となっている。相互相関を用いるなどの統計的な分離方法はこれまでも考えられきたが、マップベースでシグナルを分離する手法は確立していない。
この問題に対して、我々は機械学習を用いた情報分離の手法を提案する。特に、画像解析に適している畳み込みニューラルネットワークのうち、2016 年に提案された敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いる。GAN では画像生成ネットワークとそれを判定するようなネットワークが敵対しながら学習が進むため、一般に従来の手法より複雑な画像を生成できることが知られている。本研究では二次ラグランジアン摂動論に基づいたハローカタログ生成アルゴリズムを用いて SPHEREx を想定した模擬観測マップを生成し、学習を行った。この結果、我々のネットワークは特定の輝線マップのピーク位置やパワースペクトルなどを適切に再構築できることがわかった。本セミナーでは、輝線インテンシティマッピング観測や本研究で用いた機械学習の手法について紹介したのち、得られた結果を報告する。