第92回
固体(地球型)惑星の誕生は,ミクロンサイズのダストに始まり,これが付着成長してkmサイズの微惑星を作り,微惑星が合体して原始惑星を作り,最終的に惑星形成に至ると考えられている。しかしながら,原始惑星系円盤ガスとの摩擦により,ダストの付着成長過程において最短100年でダストが中心星に落下してしまうという問題(中心星落下問題)と,ダスト同士が衝突する際に付着せずに破壊してしまうという問題(衝突破壊問題)が指摘されており,固体微惑星形成問題はいまだに解決していない。中心星落下問題を切り抜けるメカニズムとして,注目されているのがストリーミング不安定である。これは,中心星への落下を逆手に取り,落下する過程でストリーミング不安定が起こりダスト凝縮が起こるというものである。この不安定性が有効になるのは,原始惑星系円盤の中でダスト-ガス比が数倍になり,cmサイズの石ころ(ペブル)ができたときとされているが,ダスト-ガス比の増幅やペブルの起源については解決されていない。原始惑星系円盤中のダストの集積過程は,乱流によって制御されていると考えられている。1AUから10AUの原始惑星系円盤は,電離度が低く,磁場の透過しないdead zone となることが理論的に予測されており,その中の乱流は磁気乱流ではなく通常の流体的乱流状態にあると考えられる。これまでの研究で,限界付着速度が大きい空隙率の高い氷ダスト(fluffy-ice-dust)の場合は付着成長が早く進み微惑星形成に至ることが可能であることが示されているが,限界付着速度が小さい岩石ダスト(silicate dust)の場合は,衝突破壊頻度が高く,付着成長が難しいことが指摘されている。しかしながら,これまでの計算は乱流場を正しく解いておらず,乱流場中のダストの速度分布関数も正確に求まっていなかった。そこで,我々は,ナビエストークス方程式を解くことで乱流場を正確に計算し,この中に置かれたダストの速度分布関数を正確に求めた。その結果,ダストの速度分布関数はこれまでの理論的予想よりも数倍小さくなり,かつ分布の形もGaussian型ではなくStreached-exponential型になることが分かった。これを用いて,ダストの成長率を計算したところ,cmサイズのペブルが形成可能であることが分かった。さらに,乱流場によるクラスタリング効果によって,ダスト-ガス比は数倍大きくなることが明らかとなり,これによってストリーミング不安定による微惑星成長が可能であることを明らかにした。