第52回
最近の研究から,ほぼ全ての銀河には太陽の100万倍~10億倍もの質量をもつ超大質量ブラックホール (Supper Massive Black Hole, SMBH) が潜んでいることが分かった。 これはSMBHが宇宙の中で普遍的に存在していることを意味する。 SMBHに周囲のガスが落ち込むと,重力エネルギーが解放され銀河の中心部が明るく輝く。 この種の天体は活動銀河核(Active Galactic Nuclei, AGN) と呼ばれる。 AGNはその観測的特徴から1型,2型AGNに大別されるが,現在ではSMBHを取り囲むような遮蔽体(ダストトーラスと呼ぶ)の存在を仮定することで,観測方向の違いという観点から観測結果の多くを説明することに成功している。
このダストトーラスを特徴づける物理量の一つとして,カバーリングファクター(CF) がある。 CFとはトーラスによって中心核が隠されている割合のことであり,全AGNに対する2型AGNの割合と等価な量として定義できる。 近年,このダストトーラスのCFがAGN光度や赤方偏移に依存するという報告がなされている(e.g. Hasinger 2008) 。 その一方で,依存性はないまたは,選択効果による見かけ上の依存性であるという報告もあり(e.g. Dwelly et al.2006),光度依存性や赤方偏移依存性については明確な結論が得られていないのが現状である。
そこで我々は,Wide-Field Infrared Survey Explorer (WISE) の中間赤外線全天サーベイカタログを用いて,上記の問題の解決を試みた。 中間赤外線はトーラスからの熱放射を直接観測できる点で有用な波長である。 我々はWISEにSloan Digital Sky Survey (SDSS) 可視分光カタログを併用することで,1万天体以上のAGNを選出し,光度関数を用いて統計的にトーラスの中間赤外線光度依存性と赤方偏移依存性を調べた。 その結果,赤方偏移z < 0.3 の近傍宇宙において,2型AGNにLINERやComposite type銀河を含めるか否かに関わらす,CFが中間赤外線光度の増加とともに減少していく ことが分かった。 一方で,CFは赤方偏移には有意に依存しない結果を得た。 本発表ではこれらの結果の詳細に加え,その解釈についても議論する。