第39回
銀河・銀河団・宇宙の大規模構造などの無衝突自己重力系の研究では,過去数十年にわたってN体シミュレーションがほぼ唯一の数値シミュレーションの手法として「君臨」してきた。 実際にそれらの方法は数々の成功を収め,多大なる成果を上げてきたことは事実である。 しかしながら,N体シミュレーションという手法自体の正当性を真剣に検討した研究はこれまでそれほど多くはない。 その理由は,無衝突自己重力系の基礎方程式であるVlasov-Poisson方程式系の直接数値シミュレーションが,膨大なメモリ容量と計算コストが必要とするため技術的に困難であったからである。 そのため,対称性を課して次元を落として行われた研究はあるが,座標空間3次元+運動量空間3次元の6次元位相空間での直接数値シミュレーションはこれまで試みられていなかった。
本研究では,そのVlasov-Poisson方程式系の直接数値シミュレーションに世界で初めて取り組んだ。 発表では,数値シミュレーションの手法を簡単に紹介したあとで,様々なテスト計算をN体シミュレーションとの比較を交えながら紹介し,Vlasov-Poisson方程式系の数値シミュレーションの妥当性を評価し,今後の有望な応用分野について考察する。 また,大規模並列計算機における並列化効率(強弱スケーリング)の評価も紹介する。