第38回
宇宙赤外線背景放射には,宇宙初期天体の寄与が予測されるため,その観測は銀河形成や宇宙論の研究に重要な情報となる。 本講演では,これを目的とするロケット実験CIBER(Cosmic Infrared Background ExpeRiment)の紹介と最近の成果について述べる。
CIBER搭載の低分散分光器を用いた波長0.75-1.8 umでのスペクトル測定を行なった結果,銀河系外からの宇宙背景放射と見なせる等方な放射の検出に成功した。 これまでの観測では,1.25um以上の近赤外域の背景放射は系外銀河の重ねあわせからなる背景放射より数倍も明るいことが指摘され,現在の宇宙描像に見直しを迫るものとして注目されたが,前景放射の評価不足の可能性も否定できなかった。 今回のCIBER実験では,背景放射が波長1.2-1.6um付近にピークを示し,前景放射とは全く違うスペクトルをもつことから,超過成分の存在が決定的となった。 我々は未知の天体放射のあきらかな存在を認めざるをえない。 そのスペクトル形状からみて,超過成分は第一世代の星(種族III)によるライマンα等の紫外線が赤方偏移(z>10)したものである可能性が高い。
講演では,実験の経緯や内容および観測値からいかにして宇宙背景放射を導き出すかを解説し,結果に対する宇宙論的解釈や今後の研究方向について議論する。