第33回
近年,様々な観測により宇宙はz~6において既に電離されており,宇宙再電離過程はそれ以前起こった事が示されている。 一方,理論的立場からみると,現在標準とされるCold Dark Matterモデルでは,小さな天体ほど先に形成される事が示されており,その為宇宙再電離を引き起こした光子源は低質量な銀河内の星々である事が期待される。 しかし,これらは小さな天体では紫外線の影響により星形成が強く阻害される事が知られており,これらの事を踏まえると,宇宙再電離は自己調節的に進んだと考えられる。
そこで我々は,自らが開発した輻射流体コードSTART (Hasegawa & Umemura 2010)を用いる事でこの自己調節的宇宙再電離をシミュレートした。 特に,この輻射輸送計算では,個々の銀河サイズを十分分解するほど高い空間分解能を持つ為,これまでの宇宙再電離計算 では正確に考慮できなかったハロー内部の星からの輻射フィードバックを適切に組み込むことができる。 計算の結果,星形成は主にこの内部的フィードバックによる光加熱によって支配され,紫外線の効果を考慮しない場合に比べて最大で~1/4まで星形成率が下がる事を示した。 また,計算結果は,z=6-7で観測される中性水素割合をよく再現するが,トムソン散乱に対する光学的厚みはWMAPで得られた値に届かない。 この事は,我々のシミュレー ションでは特に高赤方偏移において電離光子源が足りていない事を示唆している。 講演では,これらの結果を詳しく紹介するとともに,今後の展望についても議論を行う。