第29回
クエーサーのGunn-Petersonテストや宇宙背景放射の偏光測定から 水素の宇宙再電離は赤方偏移6-15程度に起こったことが分かっている。 しかし,宇宙再電離に関する本質的理解は殆ど進んでいない。例えば, 宇宙再電離が比較的短時間で終了するsharp reionizationだったのか その逆のextended reionizationだったのかといった問題,さらには 宇宙再電離の根本的な問題である電離プロセス(大規模構造の中での電離の伝播) に至っては,何ら解決の糸口はない。我々は,すばる広領域深探査から 宇宙再電離期の銀河を多数検出し,銀河のLya輝線に見られる Lya damping wingの吸収を元に赤方偏移6.6での電離度を探った。 その結果,赤方偏移6.6の水素の大半(>~80+/-20%)は電離されていることが 示唆された。一方で,すばるおよびハッブル宇宙望遠鏡の観測から 得られた赤方偏移7付近の星形成銀河がもたらす紫外線光子の放射密度は, 宇宙を電離するのに必要な量の30%以下しかないと見積もられた。 本発表では,これら一見矛盾する結果が得られた理由を考察し 宇宙再電離と銀河形成に対する制限を示す。さらに,この問題 を解決し,電離プロセスを明らかにする取り組みとして, 現在筑波大学の研究者と一緒に進めているすばる次世代装置 Hyper Suprime-Camの観測データと超大規模シミュレーションを 組みわせた研究について紹介する。