第8回
球状星団は一万から百万個の星からなる天体である。星団では,その二体緩和 時間の十数倍後に重力熱力学的コア崩壊が起こるはずである。しかし,実際に は二体緩和時間の十数倍以上の年齢であるにもかかわらず,コア崩壊の起こっ ていない星団が多数存在する。星団形成と同時に形成される連星(初期連星)の 存在を考慮することは,この問題を解決するひとつの方法である。過去の研究 によって,初期連星が多数星団内に存在すれば,星団の重力熱力学的コア崩壊 が二体緩和時間の数十倍遅れることが示された。しかし,初期連星を決定する パラメータには,初期連星の割合,束縛エネルギー分布など多数あるにもかか わらず,一部のパラメータの初期連星を含む星団の進化しか調べられていない 。例えば束縛エネルギー分布は対数スケールで一様な分布の場合しか調べられ ていない。私は異なる束縛エネルギー分布の初期連星を含む星団の力学進化の 違いを調べた。その結果,束縛エネルギーの低いまたは高い初期連星ばかり存 在する星団では早く重力熱力学的コア崩壊が起こり,中間の初期連星ばかり存 在する星団では,過去の研究と同じように重力熱力学的コア崩壊が遅くなるこ とを示した。これは各連星が星団に与えるエネルギー量の束縛エネルギー依存 性を反映している。