第1回
磁気リコネクションは,プラズマ中で磁場のエネルギーを変換する素過程の一つ である。天体物理,地球磁気圏,宇宙天気予報,核融合等,多様な分野での応用 が重要視されているため,近年急速に注目されている。しかし,応用に専念でき る程,素過程の理解は十分ではないと講演者は考えている。解決策として,講演 者は新しい理論モデルを構築し,これを新たな標準理論モデルとすることを提唱 している。 プラズマ中のハイパワーエンジンプロセスとして,1964年に初めての「速いリコ ネクション」モデルであるPetschekモデルが提案された。このモデルは,当時謎 であった太陽フレアや地球磁気嵐を説明しうる程ハイパワーであったため注目さ れた。これ以来,Petschekモデルを標準理論モデルとして,多数の理論的,数値 的,現象論的研究が行われて来た。今日では,一般の恒星,原始星や活動銀河中 心部の降着円盤,銀河団など多様なスケールの高エネルギー現象に応用できる汎 用性も認められており,日本天文学会での講演でも,多数の分科会での講演が磁 気リコネクションに触れているのが現状である。 圧倒的多数の研究は応用面に偏っているが,いくつかの未解決重要問題が残され ていることにも目を向けなくてはならない。 特に
講演者の提唱する新モデルである「自己相似時間発展モデル」は,流体描像での 巨視的研究によって以下の新たな知見を与えた。異常抵抗の微視的素過程を考察 する替わりに,電気抵抗値に関連する無次元パラメータ(磁気レイノルズ数)の 値の広い変化に対する挙動を網羅的に調べた。もう一つの無次元パラメータ(プ ラズマβ値)についても挙動を網羅的に調べた。リコネクションシステム全体を 自己無撞着に準解析的に解いた結果,リコネクションによって生じた流れが自発 的に変換パワーを決定している事が明らかになった。特に,従来の研究で十分に 解明されていなかった高磁気レイノルズ数領域でのリコネクションの挙動を明ら かにした点が重要である。 また,今日隆盛を極めている計算機による流体シミュレーションでリコネクショ ンを研究する際には,特に高磁気レイノルズ数領域で不可避の本質的困難を伴う ことにも注意しなくてはならない。実は,広く普及しているメッシュ法を用いた シミュレーションでは,高磁気レイノルズ数リコネクションの計算は事実上行え ない。天体現象では,高磁気レイノルズ数での現象がしばしば重要となるが,こ の問題については数値計算は有効でないと言える。この事情から,従来の研究で は高磁気レイノルズ数でのリコネクションについての理解はほとんどなされてい ないはずである。例えば,「ひので」が明らかにした,太陽での極小フレアは高 磁気レイノルズ数でのリコネクションとして理解できる可能性があるが,これら を理解するには,自己相似モデルを適用するのが最善である。 本講演では,リコネクションの概念の解説から,自己相似モデルの主要点までを カバー。