第34回
銀河の衝突・合体は,階層的構造形成理論において普遍的なものである。我々はそれらが銀河の形成・進化に与える影響について,N体シミュレー ションを用いて調べている。本セミナーでは最近得られた2つの結果について紹介する。 1. 衝突する2つの系の間に質量比がある場合,小さな系(satellite)は力学摩擦によって軌道エネルギーや角運動量を失い,大きな系(host)の中 心部へと沈み込む。力学摩擦はChandrasekhar (1943)により導出された,基本的でかつ重要な物理過程である。Chandrasekharによると,satelliteの後ろ側にはhost内の粒 子の轍が形成されるはずであるが,これを数値シミュレーションによって直接示した例は数えるほどしかない。我々はN体シミュレーションによ り,hostの力学応答には轍だけでなく軸対称な成分も存在することを示す。さらにはそれらを再現する理論モデルを構築し,近傍の銀河に適用 した。 2. Ishiyama (2014)は宇宙論的N体シミュレーションにより,コールドダークマター粒子の質量から期待される最小質量スケールのダークマターハローの形成・進化を 調べた。それによると,最小スケール付近のダークマターハローの中心部の密度カスプはNavarro-Frenk-Whiteモデルよりも鋭 く,成長とともに緩くなる。我々はN体シミュレーションを用いて,衝突・合体が最小スケール付近のダークマターハローの進化に与える影響を調 べ,Ishiyama (2014)の結果に理解を与える結果を得た。