第1回
宇宙の大規模構造はどのように形成し成長したのか。また,その大規模構造の中で大質量銀河(約1011太陽質量)はどのように形成・進化したのか。非相対論的暗黒物質に基づく現在の構造形成論によれば,銀河団は暗黒物質の空間分布のピークに位置する。なかでも高密度のピークでは爆発的星形成を伴った大銀河の形成が生じている可能性が高く,超新星爆発により生成された星間ダストが銀河全体を覆い尽くすと考えられる。このダストは星形成領域からの紫外線をほぼすべて吸収し,遠赤外線からミリ波サブミリ波領域で莫大なエネルギーを放射する。このような形成途上にある大質量銀河は「サブミリ波銀河」と呼ばれ,宇宙星形成史,巨大銀河形成,大規模構造形成といった現代の宇宙物理学の中心課題と強く関連していることが指摘されている。一方で,観測技術の困難がこれらの問題の解決を大きく妨げていた。 本研究では「サブミリ波銀河は成長中の宇宙大規模構造がつくる重力ポテンシャルの底部に形成する」という作業仮説を検証することを目的とし, ASTE望遠鏡に搭載した新型カメラAzTEC(波長1.1ミリ)を用いて,Lyα輝線銀河の密度超過領域として知られるSSA22原始銀河団(赤方偏移 3.1)に対するサブミリ波銀河の広域(0.11平方度)探査を実行した。この結果,30個のサブミリ波銀河の検出に成功し,これらが赤外線光度にして 1012.5太陽光度を超える(極)超高光度赤外線銀河に対応することがわかった。我々の発見のうち最も重要なものは,サブミリ波銀河はLyα輝線銀河と性質をまったく異にするにもかかわらず,両者が空間的に相関している点である。この結果は,サブミリ波銀河が宇宙の高密度環境の中心で選択的に形成されやすいことを観測的に示唆した最初の例である。 講演では,SSA22におけるLyα輝線銀河の低温ダスト(< 100 K)の性質や,すばる望遠鏡をもってしても検出されない「暗黒」サブミリ波銀河,またサブミリ波銀河研究に関連する国立天文台野辺山宇宙電波観測所の将来計画についても紹介したい。