ブラックホール観測によって得られると予想される輻射スペクトルや波長ごとの撮像イメージを、理論的に作り出すのが一般相対論的輻射輸送(GR-RT)計算です。GR-RT計算は、理論モデルと観測データの直接比較において、また、観測結果の物理的解釈において極めて重要な研究となっています。多波長GR-RT計算コードRAIKOUは、ブラックホール周囲の光の伝搬を極めて高精度に解くことが可能であり、ブラックホールシャドウの計算が可能です。実際、イベントホライズンテレスコープによるM87の巨大ブラックホールの観測に貢献しました。XRISM衛星によるブラックホール天体のX線観測を視野に入れた研究も進行中です。さらに、近年開発に成功した光の強度と偏光を同時に解くGR-RTコードを駆使し、偏波観測を通じたブラックホールジェットの形成機構の研究を推進しています。
図 1 一般相対論的多波長偏光輻射輸送計算コードによるブラックホールシャドウのイメージと直線偏光分布(上)および円偏光分布(下)(Tsunetoe et al. 2020)