大須賀グループでの研究を希望する方はこちらを御覧ください。
研究室訪問をご希望の方はメール(ohsuga[at]ccs.tsukuba.ac.jp)でご連絡お願いいたします。 オンラインも対応しています。
グループの主な研究テーマは以下となります.
■降着円盤とジェット、円盤風
ブラックホールの周囲には、重力に引きつけられた物質が作り出す円盤状の構造「降着円盤」が存在します。
この降着円盤からは、重力エネルギーの解放やブラックホールスピンの効果によって、強力な放射や相対論的ジェットが発生すると予想されますが、その生成機構についてはまだ解明されていません。
また、降着円盤からは、細く絞られたジェットとは別に大きな開口角を持つ円盤風が噴出し、多数のガス雲に分裂していると示唆されていますが、その発生機構や分裂のメカニズムはまだよく理解されていません。
降着円盤から発生するジェットや円盤風は、ブラックホールの成長速度を低下させると同時に、星や銀河の進化に大きな影響を及ぼすと考えられています(巨大ブラックホール形成論参照)。
私たちは、最先端の数値流体シミュレーションを駆使して、降着円盤、ジェット、円盤風の研究を推進しています。
■巨大ブラックホール形成論
およそ全ての銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが潜んでいることがわかっています。
しかし、ブラックホールがどのように莫大な質量を獲得したのか、全くわかっていません。
しかも、こうした巨大ブラックホールが開闢からわずか数億年の宇宙に現れているという観測事実は、問題を一層深刻にしています。
少なくとも一部の巨大ブラックホールは、138億年という宇宙の歴史全体ではなく、数億年という短期間で形成されなければならないからです。
ブラックホールは、超新星爆発や超巨星の崩壊で誕生し、星間空間を移動しつつ周囲のガスを効率的に吸い込んで巨大ブラックホールへと成長した可能性がありますが、
その場合は強力な放射やジェット、円盤風が銀河の進化に甚大な影響を与えたはずです。
巨大ブラックホールの成長過程と周囲の天体への影響を同時に解明するべく、大規模な数値流体シミュレーションを実施しています。
■ブラックホールスピン
スピン(自転)するブラックホールをカー・ブラックホールといいます。
ブラックホールがスピン(自転)していると、Blanford-Znajek(BZ)効果によって強力なジェットが発生することが指摘されています。
BZ効果は、磁場を介してブラックホールの回転エネルギーを引き抜くもので、引き抜いたエネルギーを物質の加速に利用することで、強力なジェットを発生させることが理論上は可能となります。
また、カー・ブラックホール周囲の慣性系の引きずりは、Lense-Thirring(LT)効果による円盤の歳差運動を引き起こします。
円盤の歳差運動は、ジェットの噴出方向や観測される光度の周期的な変化をもたらします。
このように、ジェットの発生や周期変動、周期的な光度変化にブラックホールのスピンが関係している可能性があるのです。
私たちは、一般相対性理論を組み込んだ最新の輻射磁気流体シミュレーションを駆使して、BZ効果やLT効果を詳しく調べています。
さらに、ブラックホールスピンの宇宙論的進化についても解明を目指しています。
■ブラックホールと中性子星
ブラックホールと並んで高エネルギー現象を引き起こす天体として、中性子星が存在します。
ブラックホールも中性子星も強力なX線放射を行うことができるため、多くのX線連星の中心天体がこれらのどちらかであることは確かです。
しかし、X線源の中心天体がブラックホールなのか中性子星なのかを区別することは困難です。
例えば、超高光度X線源は宇宙で最も強力なX線源として知られ、長年にわたってブラックホールと考えられてきましたが、最近の研究によりその一部が中性子星であることが判明しました。
私たちは、輻射磁気流体シミュレーションを駆使して、降着流と噴出流の構造を詳しく調べることで、中心天体の違いによる相違点を探求しています。
そして、長年の謎である超高光度X線源の正体に迫る研究を進めています。
■模擬観測
構築した理論モデルをもとに、実際に観測した場合に得られる撮像イメージや放射スペクトル、それらの時間変動を理論的に計算することを「模擬観測」と言います。
模擬観測によって理論と観測を直接比較することで、理論モデルを検証しつつ観測結果に物理的解釈を与えることが可能となります。
私たちは、一般相対論的輻射輸送シミュレーションを実施して、歪んだ時空中を伝わる電波を精密に計算し、イベント・ホライズン・テレスコープやBlack Hole Explorer(BHEX)との共同研究を推進しています。
同時に、一般相対論的偏光X線輸送シミュレーションによって、X線帯の輻射スペクトルや偏光分布を計算し、最新のX線観測衛星XRISMやIXPEとの共同研究も進めています。
なお、大須賀はBHEXの日本チームにおいて「一般相対論/降着流/ジェット駆動班」の代表を務めています。
■数値計算コード開発
理論天文学における強力な研究手段の一つがコンピュータ・シミュレーションです。
シミュレーション技術の発展は、最先端の研究を推進するために重要な要素となります。
私たちは、物質のダイナミクスを解くための輻射磁気流体シミュレーションをより高速に実行するため、新たな計算技術の開発や人工知能モデルの導入、さらにGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)の利用を進めています。
また、模擬観測に不可欠な輻射輸送シミュレーションコードに対して、必要な物理素過程を組み込みつつ、高速で実行するためのアルゴリズム開発も行っています。
これにより、理論モデルと観測結果の比較を通じて、物理現象の理解を深めることを目指しています。
キーワード:ブラックホール,中性子星, ジェット, 降着円盤, 円盤風, 巨大ブラックホール形成論, 活動銀河核, 超高光度X線源,
X線連星, ブラックホールシャドー, 一般相対論的輻射磁気流体力学, 一般相対論的輻射輸送方程式, 数値シミュレーション
左上;
ブラックホール降着円盤の一般相対論的輻射磁気流体力学シミュレーション.
光速に匹敵する速度でジェットが吹き出す. 細い線は磁力線.(髙橋博之氏提供)
右上;
一般相対論的輻射輸送計算で再現したブラックホールシャドー. 青いリングの中心にブラックホールが潜む(川島朋尚氏提供)
左下;
浮遊するブラックホールが星間ガスに突入する状況を調べた輻射流体シミュレーション. 黄緑はブラックホールの周囲の電離領域で線はガスの流れ.(尾形絵梨花さん提供)
右下;
中性子星降着流の一般相対論的輻射磁気流体力学シミュレーション. カラーは物質および電磁場による角運動量輸送分布(井上壮大君提供)
■大須賀 健(教授)
■朝比奈 雄太 (助教)
■小川 拓未(科研費研究員)
■Huang Jiahui(科研費研究員)
■Hu Haojie(学振外国人研究員)
■武者野 拓也 (D3; 学振研究員)
■芳岡 尚悟 (D2; 受託院生/京都大学)
■黒田 裕太郎 (M2)
■上野 航介 (M2)
■ペレス アルバート健 (M1)
■栗城 琉偉 (M1)
■髙橋 博之 さん (駒澤大学)
■野村 真理子 さん(弘前大学)
■川島 朋尚 さん(東京大学宇宙線研究所)
■高橋 労太 さん(苫小牧工業高等専門学校)
■恒任 優 さん (ハーバード大学)
■井上 壮大 さん (大阪大学)
■高橋 幹弥 さん (東京工業高等専門学校)
■尾形 絵梨花さん (東京大学ビッグバン宇宙国際センター)
博士論文
修士論文
卒業論文