研究プロジェクト

星間空間におけるアミノ酸生成過程

マーチソン隕石内のアミノ酸を含む様々な有機分子の発見を皮切りに,星間空間におけるキラル分子の初観測など,現在宇宙空間における生命起源物質に関わる発見が続々と報告されています。アミノ酸には化学的性質が同等なL体(左手型)とD体(右手型)がありますが,地球上の生命体のアミノ酸は99%以上がL体であり,ホモキラリティーと呼ばれ,その起源は謎になっています。マーチソン隕石などで見つかったアミノ酸はL体が過剰にあることが報告されています。これらから,生命の起源となる有機分子が星間空間で形成され,隕石によって地球に運ばれた可能性が示唆されました。本プロジェクトでは,星間空間におけるアミノ酸の生成過程を量子化学計算によって調べています。星間空間は地球上とは比較にならないほど低温(~10ケルビン)かつ低密度(1立方センチメートルあたり$10^{-20}$グラム程度)になっています。そのような環境を考慮した分子生成過程を計算することで,地球上の生命に必要なアミノ酸の形成可能性を調べることが目標です。近年我々は,公開量子化学計算コードGaussian09(Frisch et al. 2009)と,光と分子の励起状態が絡む幅広い反応過程を扱う事が出来るSAC-CI法(Symmetry Adapted Cluster Configuration Interaction)を用いて,グリシンの生成過程について前駆体から遷移状態を含めて計算を行いました。これによって遷移状態へのエネルギー障壁などが見積もられ,星間空間における遷移のタイムスケールの計算が可能になりました(Kayanuma et al. 2017)。今後はより複雑で鏡像異性体(キラル)をもつアラニン等のアミノ酸生成についても挑戦していきます。そして,宇宙空間の円偏光場がL体過剰を引き起こした可能性を考え,右巻き・左巻き円偏光に対する光吸収率の差(円二色性)の計算を行うことで,アミノ酸のL/D体比が宇宙空間ではどのような割合になるのかを調べます。本プロジェクトではアミノ酸生成,それらの円二色性の両方を踏まえて生体アミノ酸の起源に迫っていきます。

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図 1  星間空間を想定し,量子化学計算によって得られたグリシンの生成過程。各遷移段階でのエネルギーも計算している (Kayanuma et al. 2017)



参考文献・リンク

  1. M. Kayanuma, K. Kidachi, M. Shoji, Y. Komatsu, A. Sato, Y. Shigeta, M. Umemura, 2017, Chemical Physical Letter, 687, 178