研究プロジェクト

超巨大ブラックホールジェットや銀河風による星間乱流

AGNフィードバックの新しいパラダイム

銀河とその中心に存在する超巨大ブラックホールは共進化することが知られているが,どのようにして共進化するのかはまだほとんどわかっていない。ブラックホールは,相対論的なジェットや銀河風,輻射圧によってガスを排出することで,銀河の星形成を制御していると考えられている。しかし,星形成が止まっている大質量銀河の最近の観測では,ガスの流出による星形成の停止ではなく,乱流的なガスの動きが見られる天体が見つかってきた。

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図 1  ブラックホールジェットフィードバックの最近の相対論的流体力学シミュレーション (Mukherjee et al 2018)。左:乱流的銀河円盤に斜めに伝搬し星間ガスを分散するジェットの進化。右:ジェットが星間物質と相互作用する前後の円盤内の星形成率。

我々は,共進化に寄与する銀河形成の新しいパラダイムを提案する:"超巨大ブラックホールは星間物質中に強い乱流を発生させ,銀河の進化に影響を与えるのか?"

新しいブラックホールフィードバックモード:星間乱流

銀河の中心にある超巨大ブラックホール(SMBH)は,ジェット,銀河風,輻射を介してガスの流入を止め,星形成とSMBHの成長を制御することができる。これを「SMBHフィードバック」と呼ぶ。

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しかし,我々の最近のシミュレーション(Wagner et al 2016, Mukherjee et al 2018, 図1)ではアウトフローの効率は今まで思われたよりかなりに低いことが分かってきた。共同研究者 Nesvadba et al (2011) の観測では,アウトフローが検出されてないのにも関わらず,星形成は強く抑制されている銀河が存在することが分かった。SMBHのフィードバックはアウトフロー以外にも何かしらメカニズムがあるのでしょうか?

AGNアウトフローが発生せず星形成を抑制するという問題の解決策の一つとしては,SMBH活動による星間物質の強い乱流がかんがえられる。SMBH活動による乱流の定量的な理論はまだ存在していない。本プロジェクトでは,「乱流の注入による星形成をSMBH活動が制御できるか」という問題を取り上げ,その物理を解明することを目的としている。

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図 3  乱流に支配された電波銀河3C 326 (Nesvadba et al 2011) の観測データ。(上段)水素分子の発光,ガス流速,ガス速度分散のマップ,(下段)日本の水素分子の輝線とPaschen-α輝線の非対称性マップ。これらのデータは,銀河の中に大規模な乱流的な星間ガス貯留していることを示している。今後,3C 326をはじめとする6つの銀河についても新しいデータが得られる予定である。

課題は下記のとおりです:

  1. ブラックホールの風と放射によって生成された乱流の新しい3次元放射・磁場・流体力学シミュレーションを設計し,実行する。
  2. ブラックホールフィードバックの3次元相対論的流体力学シミュレーションにおける乱流の進化を分析する。
  3. 乱流が星形成を増減させる条件を特定する。
  4. シミュレーションの銀河を用いて電波や可視光・赤外線の合成画像を作り,観測と比較する。

観測との比較

シミュレーションで予測された乱流の性質は観測データと直接比較する。具体的には,電波銀河 3C 326 とさらにAGNの乱流が発生していると思われる大質量銀河の候補となる6つの高赤方偏移銀河について,ALMA,JVLA,VLT SINFONI 観測を行ったり,すでに存在するデータを手に入れ,シミュレーションから電波・可視光・赤外放射を計算し,合成観測イメージを作り観測と比較する。乱流の特徴は,図2に示すように,線幅が広くて非対称な輝線ラインプロファイルである。



参考文献・リンク

  1. Nesvadba, N.P.H. et al., 2011. Dense gas without star formation: the kpc-sized turbulent molecular disk in 3C 326 N. Astronomy and Astrophysics, 536.
  2. Mukherjee, D. et al., 2018. Relativistic jet feedback - III. Feedback on gas discs. Monthly notices of the Royal Astronomical Society, 479, pp.5544–5566.
  3. Wagner, A.Y. et al., 2016. Galaxy-scale AGN feedback - theory: Galaxy-scale AGN feedback - theory. Astronomische Nachrichten, 337(1-2), pp.167–174.