ブラックホール降着円盤やジェット、円盤風はどう観測されるのか?観測結果を説明できるのか?理論と観測の比較によって、ブラックホールの時空構造および強重力場中の高エネルギー現象を解明するのが本プロジェクトの目的です。
理論計算によって構築されたモデルは、観測結果を再現することではじめて認められます。一方、観測データは理論計算との比較によって、はじめてその意味するところが判明します。理論と観測の直接比較は、天文学の発展において必要不可欠なものなのです。巨大ブラックホールの撮像に成功したイベントホライズンテレスコープをはじめ、ブラックホールを主要なターゲットとした多数の観測プロジェクトが稼働もしくは進行している今、理論と観測の直接比較による研究はますます重要なものとなっています。
そこで必要となるのが輻射輸送計算です。ブラックホールをターゲットとした輻射輸送計算では、高温プラズマによる光子の生成や吸収、コンプトン散乱/逆コンプトン散乱、一般相対論効果によって引き起こされる光線の曲がりと振動数の変化、こうした物理素過程を考慮して光の伝搬を解きます。多波長イメージや輻射スペクトルを理論的に作り出し、それを観測データと直接比較することで、理論モデルを検証しつつ、ブラックホールの時空構造やブラックホールにまつわる高エネルギー現象を解明します。
図 1 一般相対論的輻射輸送計算によるブラックホールシャドウ。(川島朋尚氏提供)