図 1 合体直前の2つのブラックホールの質量と重力波観測との比較。
2016年以降,aLIGO+aVIRGOによる重力波観測により,50を超えるブラックホール合体イベントが報告されている。このうち大部分は,$10 M_\odot$($M_\odot$は太陽質量)以上の大質量ブラックホール・ペアの合体である。ブラックホール合体の理論は,連星の進化の結果としてできた連ブラックホールが合体するというシナリオがこれまで中心的であった。連星進化の理論に従うと,連ブラックホールのスピン軸は潮汐力の効果により同じ方向を向くことになるが,ほとんどのイベントで,スピン軸が揃っていないことがわかった。これは,連ブラックホールが連星の進化以外のプロセスでできたことを示唆する。我々は,重力波によるブラックホール合体の検出以前より,3つ以上の多重ブラックホールの中で“巡り合い”により連ブラックホールが形成され,最終的に重力波を放出して合体するという新たなシナリオを提唱し,合体のための条件を理論的に解析してきた(Tagawa et al. 2015, 2016)。この解析では,近点移動や重力波放出といった一般相対論的な効果をポストニュートニアンで扱い,ガスによる力学的摩擦やホイル・リットルトン降着を入れた。その結果,高密度ガスの環境下で,力学的摩擦が角運動量輸送に効果的に働いて,連ブラックホールが形成され,これが最終的に重力波を放出して合体することを示した。そして,観測されている連ブラックホールの質量に合致する合体条件を求めた結果,ブラックホール多体系の広がりが1pcよりも小さく,ガス密度が$n\sim 10^6$ cm$^{-3}$のとき,力学的摩擦がブラックホールの3体相互作用を誘起し,その結果連ブラックホールが作られ,3千万年以内に重力波により合体に至ることがわかった。また,このような多重ブラックホールの中でのブラックホール合体が起こりうる場所として,銀河中心ガス円盤の可能性が高いことがわかった(Tagawa & Umemura 2018)。
図 2 銀河中心でのブラックホール合体を考慮した超巨大ブラックホールと銀河の共進化の新たなシナリオ。
この場合,いかにして高密度のガス円盤を作るかということが問題になる。2001年に梅村は,銀河バルジの星が作る輻射場が引き起こす抵抗(ポインティング・ロバートソン効果)によって,星間ガスの角運動量が失われ,銀河中心に高密度ガス円盤を作り,超巨大ブラックホール形成に至るシナリオを発表した(Umemura 2001)。このシナリオでは,超巨大ブラックホールの最終質量は,水素からヘリウムへの核融合のエネルギー転換効率 ε = 0.007 で決まり,0.3ε - 0.5ε(0.002-0.003)になると予想される。これは,観測されている超巨大ブラックホール-銀河バルジ関係とも符合する。このシナリオと上記の多重ブラックホール合体を組み合わせると,図2のような超巨大ブラックホールと銀河の共進化の新たなシナリオが構築できる。まず,初代銀河の中で種となるブラックホールが作られ,星とガスの力学的摩擦によって,銀河中心に沈下する。同時に階層的銀河形成の結果,銀河バルジが形成され,輻射抵抗(ポインティング・ロバートソン効果)によってガスが銀河中心に落ちて,高密度ガス円盤が形成される。このガス円盤の中で,“巡り合い”による連ブラックホール形成と合体が進み,大質量ブラックホールが形成される。この大質量ブラックホールにガス円盤に残ったガスが降着して,活動銀河核(AGN)を作り,最終的に超巨大ブラックホール-銀河バルジ関係が成立する。