現在の標準的な銀河形成モデルであるcold dark matterによる階層的構造形成論によると、銀河には星質量の$100$倍以上のダークマターを含むことが知られている。 しかし、最近の観測では、理論的に予測される質量よりも非常に少ないダークマター質量を持つダークマター欠乏銀河の存在が報告されている。 この問題を解決するために本研究では、ガスを含んだダークマターサブハロー同士の正面衝突現象によって形成する銀河の物理過程を調査した。 大質量銀河のホストハローに付随するダークマターサブハロー同士の衝突頻度を解析的に推定した結果、ホストハローのビリアル半径の10\%の領域で$10\,\mathrm{Myr}$の衝突タイムスケールとなり、半径の増加とともに相対速度が増加することがわかった。 次に、解析的モデルと数値シミュレーションを用いてダークマターサブハロー同士の衝突現象を調査した結果、速度に応じてダークマターが多い通常の銀河やダークマター欠乏銀河の形成経路があることを示した。 相対速度が小さい場合、二つのダークマターサブハローが合体し、ダークマターが多い通常の銀河が形成される。 中程度の相対速度の場合には、二つのダークマターサブハローは互いに通過するが、ガス成分は衝突して密度が上昇し、爆発的な星形成を起こす。結果的に、衝突面でダークマター欠乏銀河の形成を誘起する。 相対速度が大きい場合は、衝突面で発生した衝撃波がガスの表面に到達することで生じるshock-breakoutによって、銀河は形成しなくなる。 一例として、質量$10^9\,\mathrm{M_\odot}$のダークマターサブハローのペアに対して、相対速度$200\,\mathrm{km/s}$での正面衝突シミュレーションを行った結果、星質量$10^7\,\mathrm{M_\odot}$を持つダークマター欠乏銀河を形成する。
本論文は,Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(王立天文学会月報)に掲載された。