図)左右から衝突しつつある銀河団が連結する領域を真横から見た図。 白実線の四角は日本のX線天文衛星Suzakuがすでに観測を行った領域で(Fujita et al. 2008 PASJ, 60, S343), 白破線の四角が今回新たに予想される衝撃波面である。 図はそれぞれ衝突軸でスライスした(a)ガス密度 (b)ガス平均温度 (c)電子密度/ガス平均温度 (d)24回階電離鉄割合の実験結果/平衡値 (e)衝撃波のマッハ数 , そして視線方向に積分した (f)(6.6-6.7keV帯/6.9-7.0keV帯)輝線強度比の実験結果/平衡値。
赤堀卓也研究員と吉川耕司講師は,衝突しつつある2つの銀河団 Abell399/401が接触する連結領域の数値シミュレーションを行い, 連結領域に付随する電離ガスの重元素の電離状態が平衡値からずれ, 電子とイオンの温度も一致しないことを明らかにした。 また連結領域の端に観測ではまだ見つかっていない衝撃波面が存在する可能性があることが分かった。 日本天文学会の欧文研究報告8月号に掲載された。 Preprint
銀河団は銀河群や小銀河団の度重なる衝突合体を経て作られてきたと考えられている。 銀河団には数千万度に達する高温の電離ガスが付随しているが, おそらくこのガスを加熱した起源は衝突合体の際に生じた断熱圧縮や衝撃波である。 これらは宇宙の重力エネルギーを熱エネルギーへと変換する重要なプロセスである。
銀河団は銀河群や小銀河団の度重なる衝突合体を経て作られてきたと考えられている。 銀河団には数千万度に達する高温の電離ガスが付随しているが, おそらくこのガスを加熱した起源は衝突合体の際に生じた断熱圧縮や衝撃波である。 これらは宇宙の重力エネルギーを熱エネルギーへと変換する重要なプロセスである。
X線天文衛星によって観測されているこの電離ガスは,電子とイオンとで構成されている。 これらは理想的には熱平衡状態にあって,電子とイオンは同じ温度にあり, 電離状態はイオン化・再結合の反応がバランスした値にある。 しかし,圧縮や衝撃波などでガスが急激に加熱を受けると,一時的に熱平衡状態ではなくなる。 そして一定の時間を要しながら熱平衡状態に緩和をしていく。この熱的緩和の時間が, 銀河団の外縁部では密度が低いため実はそう短くなく, ぶつかって加熱を受けた後でもしばらくの間はこれらの平衡(衝突電離平衡や電子-イオン温度平衡) が成り立っていない可能性があった。
そこで研究員らは,ダークマターとガスの運動だけでなくガスの電離状態と2温度状態の時間進化も同時に解く 衝突銀河団の3次元数値シミュレーションを,筑波大学のスーパーコンピュータを用いて世界で初めて行った。 その結果,Abell399とAbell401の2つの銀河団が接触する連結領域では電子温度がガス平均温度より数%低いこと(図c)や, 主要に存在しているFexxv(24階電離した鉄)の割合が平衡値より10-20%多いこと(図d)を初めて明らかにした。 またこの研究で新たに連結領域の端には観測ではまだ見つかっていない マッハ数1.5-2.0の衝撃波面が存在する可能性があることを明らかにした(図e)。 そこでは複数の電離状態にある鉄からのKα輝線放射の強度比が, 平衡値から数10%もずれている様子が観測される可能性がある(図f)。
今回の研究は,非熱平衡状態を考慮することで重元素量の精密な推定を可能にし, 銀河の進化や銀河からの重元素汚染の精査に資するだけでなく,鉄のKα輝線強度比のずれという, 宇宙論的に起こる衝撃波の存在を知る手がかりを与えた。 今後,Suzaku衛星や次世代天文衛星によるさらなる調査が期待される。