はじめに
筑波大学の我々のグループでは、宇宙物理学と計算科学の分野で幅広い研究が行われています。宇宙物理学分野では、銀河形成や進化、ダークマターによる構造形成、銀河衝突と巨大ブラックホールの活動性、銀河風の物理的性質の研究などがあります。
最近では、銀河における生命生存可能領域についての研究も行っています。
研究手法としては、数値シミュレーションを使った研究テーマが多いですが、昔ながらの紙と鉛筆を使った解析的な手法による研究も行っています。
また、観測の研究者との共同研究も頻繁に行っており、理論と観測の融合研究も積極的に推進しています。
計算科学分野の研究としては、高精度流体力学スキームの開発や、超並列計算アルゴリズムの開発、GPUを活用した計算加速アルゴリズム開発、最近では機械学習を宇宙物理学研究に応用する研究も開始しました。
宇宙物理学を研究する上で重要な知識は、力学、電磁気学、量子力学、統計力学などの基本科目と特殊相対性理論などがあります。さらに、一般相対性理論や流体力学、放射過程を含む電磁気学の専門的な内容、データ解析のための統計学の知識を付けておくとより理解が進むでしょう。
筑波大学の大学院入試は、例年7月頃に行われる推薦入試と8月と2月の一般入試の三回の機会があり、他大学からの受験生もとても多いです。大学院入試では、希望する研究室の教員と事前に連絡を取り、どの様な研究が行われているのか、皆さんの興味と合致するのかをしっかり見極めておきましょう。
進学希望者で私の研究について詳しい事を知りたい方は、インターネットでの面談も可能です。まずはメールにてお気軽にお問い合わせください。
筑波大学 森 正夫
Research
See my activites so far
「我々の住む宇宙はどのように始まり、どのようにして今日の宇宙が出来上がったのだろうか。」 これは人類の歴史が始まったころからの根源的な問いかけに他なりません。 そして、このようなことを物理学の立場で研究する分野が宇宙論であり宇宙物理学です。
1984年ジョージ・ガモフによって発表された理論は、宇宙の始まりを議論する際のパラダイムとなり、20世紀から21世紀にわたって様々な実証観測がなされてきました。 我々の住む宇宙は今から138億年前に火の玉状態(ビッグバン)で誕生し、その後、宇宙全体が膨張しながら現在に至っていることを指し示しています。 ビッグバン理論は、宇宙が誕生して間もない頃の宇宙には、水素とヘリウム以外の重い元素(重元素)はほとんど存在しなかった事を精密に予言しています。 一方、太陽系に存在する元素の約2パーセントは重元素で構成されており、我々人間の体は炭素やカルシウム、鉄、リン、塩素など宇宙の始まりには存在しなかった様々な元素から出来上がっていることは周知のとおりです。 また、最新の宇宙観測データでは宇宙が誕生して間もない時代においてもすでに重元素が存在するケースが確認されはじめてきています。 それでは、このようなさまざまな元素はいつどこでどのようにしてこの宇宙で生成され、どのようにしてこの宇宙に分布するようになったのでしょうか。 さらに、我々の様な生命は宇宙進化のいつどこで発現したのでしょうか。
ビッグバンで宇宙が誕生した後、物質の大部分を占めるダークマターが宇宙全体に広がっていたと考えられています。 ダークマターは宇宙論や宇宙物理学ではその存在が必要不可欠とされていますが、素粒子実験ではまだ見つかっていない未知の物質です。 ダークマターがつくる物質分布のコントラストは重力の影響で次第に大きくなっていき、高密度領域では水素やヘリウムで構成される原始ガスも集積します。 やがて原始のガス雲の中心付近が超高密度かつ超高温状態になると核融合反応が始まります。これが初代星や種族IIIと呼ばれる宇宙最初の恒星です。 恒星内部では核融合により新しい元素が次々と合成されることになります。ところが、大質量の恒星はその進化の最後に超新星爆発を起こしてその一生を終えます。 その際に内部で生成された元素の一部や爆発とともに生成された新しい元素を星間空間に放出します。 元素組成が変化した星間ガスを材料として新たな恒星が様々な場所で誕生することで、宇宙における物質のリサイクル(コスミック・リサイクリング)が開始されます。 コスミック・リサイクリングの過程で恒星が密集した天体が誕生し、そこでは様々な元素が豊富に生成されることになります。 その様な天体を我々は銀河と呼んでいます。
このようにしてできた銀河は、銀河同士の合体や相互作用によってその後も進化が促進されることになります。 例えば、銀河系やアンドロメダ銀河のような大型の銀河は、宇宙誕生から小さな銀河の衝突・合体が繰返し発生し、数十億年かけて現在の様な形になったと考えられています。宇宙がそのような歴史を刻む中で、今から約40億年前に銀河系に太陽系が誕生しその中で我々人類が誕生しました。そして、今後数十億年経った未来には、銀河系とアンドロメダ銀河は衝突・合体して巨大な一つの銀河になると予想されています。 一方、銀河と銀河の衝突や合体は銀河を構成する恒星やガスの運動をかき乱し星形成のトリガーとなるだけではなく、銀河中心の超巨大ブラックホールの活動に影響を及ぼすと考えられています。
我々が目指す標準銀河形成・進化模型では、銀河の形成・進化のみならず、宇宙における元素生成とその分布、ブラックホールの活動性、ダークマターの性質などの謎を解き明かすことを目標としています。 悠久の時の流れの中で我々の銀河宇宙がどの様に進化してきて、どのような未来が待ち受けているのかを、自然科学的な立場で詳細に描き出すことが私の研究グループの研究活動の根源となっています。 以下のリンクでは、研究内容の詳細や研究グループの活動について紹介しています。ご興味をお持ちの方はご覧ください。
Our team
Group members for this year and graduates
- 研究室在籍メンバー
- 研究室卒業メンバー(博士課程修了)
- 大滝恒輝:2023年3月博士(理学)及びデュアルディグリープログラムにより2022年3月修士(工学)
"Formation of Dwarf Galaxies Induced by Dark Matter Subhalo Collisions"
鹿児島大学/Sapienza University of Rome(Italy):PD研究員 - 加藤一輝:2019年3月博士(理学)
"Dynamics of the cusp-to-core transformation in less massive galaxies and formation of the ultra-diffuse galaxies"
一般企業就職 - 桐原崇亘:2017年3月博士(理学)
"Numerical study of internal structure of galaxies via minor merger events in M31"
北見工業大学:准教授 - 五十嵐朱夏:2017年3月博士(理学)
"Transonic analysis of galactic out flows and its application"
産業技術総合研究所:PD研究員 - 扇谷豪:2014年3月博士(物理学)及びデュアルディグリープログラムにより2013年3月修士(工学)
"Solving the core-cusp problem of cold dark matter halos and the origin of their observational universalities"
浙江大学(中国):助教 - 三木洋平:2014年3月博士(理学)及びデュアルディグリープログラムにより2013年3月修士(工学)
"Numerical Investigation of Galactic Merger Utilizing High Performance Computing Architectures: Ancient Satellite Galaxy and Wandering Supermassive Black Hole"
東京大学:助教 - 研究室卒業メンバー(修士課程修了)
- 古谷田和真、"矮小銀河と銀河円盤の衝突における流体力学相互作用"、2024年3月、一般企業就職
- 田中駿次、"銀河系衛星銀河の潮汐破壊過程における解析モデルの構築とN体シミュレーションによる数値実験"、2023年3月、一般企業就職
- 堀田彩水、"アンドロメダ銀河の力学進化とステラーストリームの形成過程"、2023年3月、一般企業就職
- 数野優大、"ダークマターサブハローの衝突頻度と成長過程"、2022年3月、高等学校教員
- 佐々木竜志、"銀河衝突シミュレーションで探るMilky Way disk の進化シナリオ"、2020年3月、一般企業就職
- 永野裕太、"銀河風における遷音速および亜音速流の存在可能性"、2019年3月、気象庁
- 宮川銀次郎、"IC10に付随するHI gas streamの形成シミュレーションから探るdark satelliteの存在可能性"、2019年3月、一般企業就職
- 田沼萌美、"ダークマターハローのユニバーサルスケーリング則"、2018年3月、一般企業就職
- 藤原隆寛、"Integral Approachを用いた新しいGodunov SPH法の開発"、2018年3月、一般企業就職
- 楠尚久、"銀河衝突シミュレーションで探るアンドロメダ銀河のダークマターハロー外縁部構造と衝突軌道の探査"、2017年3月、一般企業就職
- 柴野祥平、"M31の銀河進化における星間ガスと恒星風の相互作用"、2017年3月、一般企業就職
- 結城文香、"矮小楕円銀河核の形成シミュレーション"、2016年3月、一般企業就職
- 村田貴紀、"銀河形成初期のアウトフローと銀河形状"、2015年3月、一般企業就職
- 土屋聖海、"球対称定常銀河風の遷音速解―銀河の質量密度分布との関係―"、2012年3月、一般企業就職
- 中村繁幸、"銀河風と矮小銀河の形状の関係について"、2011年3月、一般企業就職
- デュアルディグリープログラムは、 筑波大学大学院博士課程に在籍する大学院生が他専門の修士課程にも所属し、それぞれの学位を同時期に取得するプログラムです。 我々のメンバーでは物理学分野で博士(理学)と情報理工学分野で修士(工学)の学位を取得しています。
Lectures
My lectures for this academic year
2024年度
- 学類
- 現代物理学入門:春AB、月1(オムニバス:6/10担当)
- 宇宙物理学概論:秋AB、金4
- 卒業論文研究:通年
- 大学院
- 基礎物理学2(教育学学位プログラム):秋AB、月3
- 宇宙物理特別研究:通年
- 宇宙物理セミナー:通年
- 修士論文研究:通年
- 博士論文研究:通年
- セミナー
- 銀河セミナー:通年
- グループセミナー:通年
- 学生別セミナー:通年
About me
Who I am
准教授 博士(理学) 森正夫
- 筑波大学計算科学研究センター
- 筑波大学大学院理工情報生命学術院数理物質科学研究群物理学学位プログラム
- 筑波大学大学院人間総合科学学術院人間総合科学研究群人間系次世代学校教育創成サブプログラム兼任
Research Interests
- コールドダークマターハローの力学構造とスケーリング則の起源
- ダークマターサブハローにおける潮汐相互作用
- ダークマター欠乏銀河の形成過程
- コールドダークマターモデルのカスプ-コア問題におけるランダウ共鳴の効果
- コールドダークマターモデルのミッシングサテライト問題とダークマターサブハローの衝突
- 自己重力流体における流体力学不安定性
- 銀河衝突と流体力学相互作用の研究
- 銀河衝突とアンドロメダ・ステラーストリームの形成過程
- 遷音速銀河風の解析模型の構築
- 天の川銀河の生命存在可能領域(Galactic Habitable Zone)
- 超高精度流体力学シミュレーションコードの開発
- エルミート積分を用いたN体計算のGPUによる加速
Collaborators
- Andreas Burkert (Ludwig-Maximilians-University of Munich, Max-Planck-Institut für extraterrestrische Physik)
- Gerhard Hensler (University of Vienna)
- Michael Rich (University of California, Los Angeles)
- 千葉柾史(東北大学)
Contact
Feel free
筑波大学計算科学研究センター 029 - 853 - 6034