概要

実空間法を基にした第一原理電子状態計算コードの開発と、そのナノスケール物質への応用を行った。
特に、Si1000原子系に対して、その電子状態をあきらかにし、その電子構造が固体のそれとは大きく異なる事を示した。

これまでの成果

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密度汎関数法(DFT=Density-Functional Theory)に基づく第一原理電子状態計算は、物理、化学、生物、産業といった様々な分野で定量的な物性予測を可能にするツールとして広く用いられるようになっている。そのような広範な分野で様々な物質をカバーするために、DFT計算を行うプログラムは時として非常に大規模な系を扱うことが要求される。例えば、たんぱく質やナノ構造といった系のサイズは原子数にして数千から数万個にのぼり、このような大規模系に対して現実的な計算時間内で答えを得ることが望まれるようになってきている。

我々のグループでは数百から数千あるいは数万ノードを用いる次世代型超並列計算機の使用を念頭に置いたDFT計算コードの開発に取り組んでおり、またそれを用いたSi1万原子からなる系の電子状態計算を行っている。

プログラムは実空間差分法を採用しており、従来の平面波法と比べて高速フーリエ変換が必要ないぶん非常に並列計算に適している。また計算の最も重いサブルーチン(グラム‐シュミット直交化および部分空間対角化。ともにシステムサイズの3乗に比例する計算量)をアルゴリズムの改良によって理論ピークの8割近い性能で実行することを可能にした。

図1にSi10,701原子、H1996原子からなるSi量子ドットの原子モデルを示した。この系に対して我々は計算科学研究センターの超並列クラスターPACS-CS1024ノードを用いてセルフコンシステントな電子状態計算を行った。図2にその計算結果であるSi量子ドット状態密度を示す。比較のためバルク(原子数無限大極限)の状態密度も示した。両者はほぼ一致していることがわかる。しかしながら、我々はバンドギャップはバルクの値よりもまだ数100meV程度大きいことを見出しており、このサイズ領域のSi量子ドットは有限系と無限系の性質を兼ね備えた興味深い系であると考えている。

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今後の計画

半導体クラスタに代表されるナノ構造体はそのサイズが大きくなると結晶の性質をもつことが知られているが、どのように結晶のもつ物性に近づいてゆくかを系統的に調べた研究は実は極めて少ない。前期までは物性としてバンドギャップを例にとり、そのサイズ依存性を詳細に明らかにした。今期は物質の性質を司るエネルギー準位構造に代表される電子構造を対象とし、そのサイズ依存性を検討する予定である。また、シリコンに代表される間接遷移型の半導体とGaAsに代表される直接遷移型の半導体において、その電子構造のサイズ依存性に相違が生じるか否か?等についても詳細に検討し、21世紀のナノサイエンスは勿論のこと、21世紀のナノテクノロジーを先導する研究成果を大規模第一原理計算に基づいて創出することを目指す。

Center for Computational Sciences, University of Tsukuba