概要

宇宙最初の星や銀河の誕生、それらが放つ光の特性、銀河や銀河団の形成進化、ブラックホールの形成進化と銀河中心核活動、そして星・惑星系形成などについて基礎物理学から理解することを目指しています。研究の特色は、輻射輸送方程式や相対論的輻射流体力学方程式を扱うことにより、物質と光の相互作用を忠実に採入れていることと、多成分多体から成る天体の形成進化においてお互いの重力の相互作用を忠実に採入れていることです。研究手法としては、解析的研究やコンピュータでの演算を始めとして、計算科学研究センターのスーパーコンピュータを利用した大規模数値シミュレーションを用いています。

これまでの成果

宇宙論

最近のハッブル宇宙望遠鏡や地上の大型望遠鏡の目ざましい観測により、銀河の誕生はビッグバンから10億年ほど経った時期に起こったことがわかってきた。 一方、宇宙年齢10万年の時代の情報を伝える宇宙背景輻射は、原初の宇宙が極めて一様であったことを示している。このように静かな宇宙から、どのようにして銀河が出来たが銀河形成論の最大の問題となっている。銀河形成には、ダークマターと呼ばれる物質が深く関わっていると考えられている。ダークマターとは銀河や星(またはガス)の運動から、その存在が示唆されているが、正体はまだはっきりしていない。

クェーサーのスペクトル観測から、宇宙は年齢10万年の頃一度中性化した後、どこかで再び電離したことがわかっている。宇宙の再電離は、原始ガスの熱的進化や重力不安定性を変え銀河の誕生と原初星の誕生に重要な影響を与える。現在我々は、ダークマターに支配された宇宙を想定し、再電離の過程と原始雲の進化を輻射輸送方程式を解くことにより詳しく調べている。これらを詳細に調べることによって、銀河誕生までの宇宙史並びにダークマターの正体にも迫ることを目指している。

銀河形成

天体形成の標準理論によると銀河は最初ガスと星の小さな天体ができあがり、それが階層的に合体しながら大きな銀河へと進化していくことが示唆されている。そのような銀河形成過程の中で、バリオンは輻射冷却により熱エネルギーを失いダークマターの作る重力ポテンシャルの中へ落ち込んでいく。その一方で超新星爆発によってガスは加熱されポテンシャルの外側へと押し出される。このような複雑な過程を適切に扱った銀河形成のモデルは未だに完成していない。我々は銀河形成の非常に初期の時期から、最終的に銀河が力学平衡に至るまでの過程を数値シミュレーションにより示した。その過程で発生するガスの泡状構造は高赤方偏移で観測されているライマンアルファエミッターと非常によく似た性質をもつことがわかった。また、109年後にはその若い銀河では星からの紫外線の連続光が卓越するようになり、ライマンブレイク銀河として高赤方偏移で観測されている天体をよく再現することがわかった。最終的には、このような銀河は近傍宇宙の楕円銀河に対応する天体へと進化していくことがわかった。

星・惑星系形成

太陽系のような星・惑星系は、中心星とその周囲の原始惑星系円盤という状態を経て形成されたと考えられている。私たちのグループでは現在、次のような理論的研究を行っている。 (1) 原始惑星系円盤内の微小ダストがどのように進化して惑星形成にいたったのか。 (2) 星の誕生の様子を観測結果から正確に理解するために、そのような状況から伝播してくる輻射の輸送過程を正確に考慮した輻射輸送シミュレーションと、それに基づいた原始星・T Tauri型星の現象論的モデル化。

活動銀河中心核

クェーサーやセイファートに代表される活動銀河核は銀河半径の1万分の1以下の狭い領域から、最大で 銀河の全輻射の100倍以上のエネルギーを放出している。この膨大なエネルギーの源は巨大ブラックホールへのガス降着であると考えられており、実際いくつかの銀河の中心に巨大なブラックホールの傍証が見つかってきている。しかし、そのような巨大ブラックホールが、宇宙進化の過程でどのように出来たかについては全く謎に包まれている。我々はこの問題に取り組むために、宇宙初期の背景輻射と物質の相互作用による角運動量輸送とブラックホールへの進化のシナリオを研究している。また、銀河形成期の爆発的星形成からの強い輻射により、銀河中心のブラックホールにガスが流れ込むことで活動銀河核の活動性が駆動されるという「輻射性なだれ」モデルも提唱している。

今後の計画

計算宇宙物理学の目的は、銀河形成や星・惑星系形成などに関わる複雑な非線型現象を数値シミュレーションによって解析し、その本質的物理機構を解明することである。天体形成を司る物理は大別して、重力過程、流体力学的過程、輻射過程の3つである。 従来は重力と流体運動を主に考慮した宇宙流体力学が研究手法の中心であった。輻射過程は、物理が複雑になることと計算量が膨大であるために十分な研究はなされていなかった。しかし、筑波大学計算科学研究センターの大型計算機を用いれば3次元空間内の輻射輸送も解くことが出来るようになってきた。私達のグループでは現在、このような大型数値シミュレーション用の計算法の開発や多次元輻射流体力学の計算法の開発などを行っており、これらを通して従来は未開拓であった分野を切り開いていくことを目指している。

Center for Computational Sciences, University of Tsukuba