計算物性科学分野
量子ドットを用いた新物質設計
ナノ構造は構成原子だけでなく、その形状によってその物性を根本的にコントロールすることができる。我々は非磁性半導体のみから構成されるInAs量子細線をカゴメ格子状に配列させることで磁石を作製することができるという驚くべき理論提案を行った。さらに本ナノ構造体で出現する強磁性は電場、磁場の印加によって人工的に自在に制御できるという非常に優れた特徴をもっていることも明らかにした。
ナノスケール炭素物質の物性解明
1998年に発見された炭素ピーポッド(さやえんどう)は、フラーレン分子がチューブ内空隙に内包された、新しい階層構造を持つ炭素固体相である。我々はC60分子を内包した種々のナノチューブ(C60-ピーポッド)に対して、その電子構造とエネルギー安定性を調べた。その結果、ピーポッドの電子構造ならびにエネルギー安定性は、 C60-チューブ間空隙の大きさに依存する事が明らかになった。すなわちチューブ内空隙の充填により、チューブの電子構造制御が可能である事を示した。
計算生命科学分野
リボザイムの自己触媒機能発現機構の解明
RNAはDNAとともに生体における遺伝情報の伝達を担っているが、同時にある種のRNAは自己切断等の触媒機能を有しており(右はリボザイムの反応スキーム予想図)、その機能発現は創薬開発とも関連して注目を集めている。本研究部門では、密度汎関数法に立脚した、量子論的第一原理分子動力学法により、この自己切断反応の反応経路、対応する自由エネルギー変化を世界で初めて計算し、2個の金属イオンの存在、水およびOH基の存在が、反応促進に重要であることを見出した。
シトクローム酸化酵素の構造変化と電子状態
生体の呼吸作用の最終段階では細胞膜間蛋白質であるシトクローム酸化酵素が電子的素過程の帰結として構造変化を起こし、それによって機能の発現が生じていると考えられている。本研究部門では、構造変化と電子状態変化の因果関係を量子論によって明らかにし、「殆ど自由な電子状態」(図の薄緑の等高面で示されるように蛋白質内キャビティに波動関数の広がりをもつ状態)が素過程と密接な関係を有することを見出した。
原子核理論分野
有限量子多体系の物理
自然界には外界から孤立した物質群として、原子核・原子・分子があり、有限サイズの量子多体系として共通した側面がある。
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重陽子分解反応の実空間計算 |
また最近はナノサイエンスの進展により、人工的に有限サイズの量子系を作成する研究が発展している。これらの数個から数百個の粒子からなる有限量子多体系の解明には計算科学的な手法が大変有効である。原子核物理では、構造と反応の数値計算による研究、特に集団運動の微視的解明や不安定原子核の構造予測を行っている。また原子・分子・クラスターなどの有限サイズ物質に対して、電子励起や光応答、強レーザー場との相互作用に関する研究を進めている。
量子ダイナミクスの実時間・実空間シミュレーション
物質は電子と原子核で構成される多体系であり、原子核もまた核子の多体系である。フェルミ粒子である核子や電子のダイナミクスを記述する量子シミュレーション法の開発を進めている。
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エチレン分子の光吸収断面積 に対する第一原理計算
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フェルミ粒子のダイナミクスを第一原理的に記述する理論として時間依存密度汎関数法が注目されており、我々は実時間・実空間解法を開発してきた。原子核や、原子・分子・クラスターの光応答の解明を進めている。また孤立した物質の研究には散乱事象が不可欠である。
量子散乱問題の実空間計算で有効な波束ダイナミクス法や吸収境界条件法を発展させ、連続状態との結合を考慮した線形応答や、少数系反応計算を進めている。
物質工学分野
半導体Wannier-Stark ladderの線形・非線形光学応答
半導体超格子の積層方向に静電場を印加した系をWannier-Stark ladder(WSL)という(右図参照)。この系で光吸収により生成する励起子には、純粋な束縛状態は存在せず、すべてFano共鳴(FR)状態となる。これの関与する様々な光学的及び電子的現象を研究している。例えば、WSLのFR励起子を過渡的四光波混合(FWM)分光によって調べると、束縛状態では現れない非対称なAutler-Townes二重項が発現する。
これはFWM光のミクロ分極のコヒーレンスとFR状態の電子的位相が干渉したためである[K. Hino, et al, PRB 69,035322 (2004)]。また、WSLに遠赤外単色レーザーを複数本照射すると、様々なレーザーパラメータと印加静電場の組み合わせにより、WSL励起子の電子状態を動的にコヒーレント制御(動的局在・非局在)できることが分かった[K. Yashima, et al, PRB 68, 235325 (2003)]。
巨大磁気抵抗を示すマンガン酸化物におけるポーラロン形成
マンガン酸化物は磁場をかける事により電気抵抗が数桁もかわる巨大磁気抵抗を示す事が知られている。その機構は未だに解明されていないが、強い電子相関、強い電子・格子相互作用がその原因と考えられている。我々は二重層マンガン酸化物La2-2xSr1+2xMn2O7に対して分子軌道法を用いたクラスター計算をおこないポーラロン形成を理論的に示した。ポーラロンホッピングのエネルギー障壁は68meVともとめられたが、これは電気抵抗の温度変化から見積もられた活性化エネルギー65meVとよい一致を示した。
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