CP-PACS計画
CP-PACS計画の目的は、計算物理学に適した超並列計算機を開発製作し、 それを用いて素粒子物理学、物性物理学、宇宙物理学分野における数値的 研究の推進を図り、またこれら計算物理学分野との学際的連携を念頭におきつつ、 並列計算機工学の一層の発展を目指すことである。
このプロジェクトの準備作業は平成3年夏に開始され、平成4年春に、文部省の「学術 の新しい展開のためのプログラム」(略称新プログラム)の平成4年度の実施テーマ の一つとして採択された。CP-PACS計画は平成4年度に正式に発足し、平成8年度までの 5年間にわたり実施される。
CP-PACS計画は、文部省科学研究費補助金(創成的基礎研究費)より、総額約22億円を 受けて実施されている。
計算物理学研究センターは、全国共同利用施設として、平成4年4月10日、筑波大学 に設置された。センターは、CP-PACS計画の推進母体として機能する とともに、計算物理学および並列計算機工学の研究の推進を図ることを目的 としている。
現在、計算機工学分野15名、物理学分野18名、計33名を計画構成メンバーとしている。
研究代表者は、岩崎洋一であり、超並列計算機CP-PACSの開発製作は、
中澤喜三郎が責任者を努めている。
CP-PACSの開発製作は、計算機工学者と物理学者の緊密な共同研究のもとに
進められた。計画開始当初、両分野の研究者の間で、
目標とする物理計算に必要な計算能力と、
計画実施期間内に予想される計算機技術の進歩の枠内で、
これを実現するのに最も適したアーキテクチャが、詳細に検討された。
CP-PACSの基本設計は、この検討を通じて作成された。
CP-PACSの製作は、平成4年夏の一般競争入札により日立製作所が担当する
こととなり、以後日立製作所の協力を受けて、CP-PACSの開発製作が進められた。
プロジェクトの最初の3年間(平成4年度ー6年度)はCP-PACSの基本設計、詳細設計、及びその論理検証に費やされた。CPUチップ等の製作とハードウェアの組み立ては 平成7年当初から開始され、平成8年3月には、1024PU構成、理論ピーク性能307Gflops のCP-PACS第一期分が完成してセンターに設置され、稼働を開始した。 平成8年8月からは2048PU構成へのシステム増強が行われ、9月末に完了して、 理論ピーク性能614Gflopsの超並列処理システムを実現した。
プロジェクトの第一の目標はCP-PACSの開発製作であり、この段階では、物理応用 計算の効率良い並列処理を実現するアークテクチャの、並列計算機工学的研究が 主要な研究努力を占めた。 この作業は物理分野と計算機工学分野の緊密な協力により行われ、 RISCプロセッサ上で浮動小数点演算能力を強化するための疑似ベクトル処理機構 (PVP-SW)、ノード間の高速な通信を実現するリモートDMA等の、新しい機構を 組み込んだ基本設計がまとめられた。
平成8年度のCP-PACSの完成に伴い、並列計算機工学分野ではCP-PACSの詳細な 性能評価等を通じ、並列処理の一層の発展を目指している。
計算物理学分野では、CP-PACSを用いて、素粒子物理学、物性物理学、宇宙物理学 分野での研究が行われるが、中でも重要なテーマは、素粒子物理学における 格子量子色力学(QCD)の研究である。QCDは素粒子の強い相互作用の基礎理論であり、 CP-PACSを用いて、現在まで行えなかったレベルでの理論の検証と新たな予言の抽出 が追求される。CP-PACSの物性物理や宇宙物理学における重要問題への応用も、 その準備が開始されている。