開発状況
宇宙現象において,重力は常に現れる相互作用であり,数値シミュレーションする場合,多くの計算を必要とする部分である。
この重力部分を専用機化すれば,計算の高速化と計算機コストの大幅な削減を図ることができる。例えば東大のGRAPEプロ
ジェクトはその例である。一方で,天体の形成過程をシミュレーションするためには,重力部分だけでなく,物質や光の作用も
高速に計算する必要がある。そのためには,汎用機部分も高速化しなければならない。汎用機の高速化は大規模化を意味
する。よって,これを実現するためには汎用機の高密度化が行えるかどうかが鍵となる。汎用機の高密度化の観点で,現在
最も普及しているアーキテクチャはクラスタである。よって,クラスタサーバ内に専用機を組み込むことができれば,高性能融合
型クラスタが実現する。これまで,重力専用機は,AT互換機等で使用されているATXマザーボードのPCIバスに外部接続
するものであったため,汎用機部分の高密度化は難しく,よって大規模な計算機システムの構築ができなかった。我々は,
PCクラスタの各ノードに専用機を埋め込んでしまう新世代型の並列計算機アーキテクチャを考案し,このコンセプトで
宇宙シミュレータ”FIRST”を完成させた。
このシミュレータの実現を可能にしたのは,クラスタサーバ組み込み型の重力計算専用ボードBlade-GRAPEの開発である。
これまでの重力専用機が外部接続であったのに対し,Blade-GRAPEは,クラスタ・サーバ(2Uサイズ)のPCI-Xバスのフルサイズ
カード2スロット分に完全に収まる。理論ピーク性能は1台で136.8Gflopsである。このBlade-GRAPEの開発・製作は浜松メトリックス(株)
の技術協力を得て行われた。Blade-GRAPEは,PCI-Xバスからの3.3Vの電源供給に加えて,+12V,+5Vの直流電源供給を
必要とする。この電源供給は,日本ヒューレット・パッカード(株)の協力の下,同社のクラスタサーバで実現している。
平成16年度は16ノード(32CPU+16Blade-GRAPE)のFIRSTシミュレータ1号機を完成させた。FIRSTシミュレータの構築に関しては,
ビジネスサーチテクノロジ(株),住商エレクトロニクス(株)各社の協力も頂いた。2006年度には,計算機規模を拡大し256ノード
(496CPU+240Blade-GRAPE)のFIRSTシミュレータを完成させた。このクラスタの各ノードは多ポートGbitスイッチにより
一様ネットワークで結合され,柔軟な並列処理環境が実現している。FIRSTシミュレータ256ノードのピーク性能は,専用機33Tflops,
汎用機3.1Tflopsである。FIRSTシミュレータは,新世代の超高密度融合型並列計算機への
道を切り拓くものである。FIRSTクラスタにより,人類がいまだ見たことのない宇宙に生まれた最初の天体を直接計算できるようになる。
技術協力
Blade-GRAPEに関する技術協力
浜松メトリックス(株)
融合型クラスタに関する技術協力
日本ヒューレット・パッカード(株)
ビジネスサーチテクノロジ(株)
住商エレクトロニクス(株)