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保田 誠司 氏(筑波大学 宇宙理論物理研究室)
「三次元流体シミュレーションによる複合コンドリュール形成」

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コンドリュールは多くの隕石に含まれる、大きさ約1mmの球状ケ
イ酸塩物質であり、原始太陽系星雲中のダストが加熱溶融し急冷するこ
とで形成されたと考えられているため、惑星のbuilding blockで
あるダストのサイズ、熱進化等を探る手がかりを与える。
コンドリュールの中には二つ以上の独立なコンドリュールが付着してい
る複合コンドリュールが全体の数%存在する。これらの多くは、溶融現
象を経験中に独立なコンドリュールが衝突することで形成されたと考え
られているが、最小質量原始太陽系星雲モデルから見積られるダストの
数密度は非常に小さく、衝突頻度は数%に遠く及ばない。
我々は最近、溶融ダストの数密度を上昇させるメカニズムとして、衝撃
波後面におけるダストの分裂現象に注目した「分裂−衝突モデル」を提
唱した (Miura, Yasuda, and Nakamoto 2008)。コンドリュール
形成の有力なモデルである衝撃波加熱モデルでは、ダストはガス摩擦加
熱を受けるため、ガス流に対する前面から溶融する。また、溶融部は高
速のガス流にさらされるため、分裂することが考えられる (Kadono and
Arakawa 2005, Kato et al. 2006, Miura et al. 2007)。分裂片同士の
衝突確率を統計量(分裂片の速度分散、数密度)を用いて見積ったとこ
ろ、~0.50と存在頻度を上回る値となった。
しかし、分裂片はもとのダストから放射状に飛び出すことが考えられる
ため、速度分散を持っていたとしても実際に衝突するかどうかはわから
ない。また、衝突が起きたとしても、複合コンドリュールを形成するた
めの衝突条件(二つの液滴が付着する条件、付着後に形状を保つ条件)
を満たすかどうかわからない。これらのことを調べるためには、分裂片
のサイズ、位置、速度の時間進化の情報が必要となる。
そこで本研究では、三次元流体シミュレーションを用いて、ダストの分
裂現象と分裂片の運動を調べた。その結果、分裂片同士の衝突が実際に
生じることがシミュレーション内で確認することができ、衝突には「影
効果」(後に飛び出した分裂片が先に飛び出した分裂片にあたるガス流
を遮る効果)が重要であることがわかった。また、分裂片同士の衝突速
度、衝突角度を解析した結果、多くの衝突が破壊的でないことがわかっ
た。これらの結果は溶融ダストの分裂によって複合コンドリュールが形
成されうることを示唆する。
コロキウムでは、最近研究中の「三次元流体シミュレーションを用いた
複合コンドリュールを形成するための衝突条件」についてもお話する予
定である。

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