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赤堀 卓也 氏 (筑波大学 宇宙理論研究室)

「衝突銀河団 Abell 399/401の連結領域における 重元素の電離状態と電子ーイオン2温度状態の研究」

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銀河団銀河は銀河団がボトムアップ的に成長するときに力学的・熱的影響を受け 形成進化を遂げ、その過程で銀河団ガスに重元素を供給してきたであろう。
重元素の量と分布はこれらの形成進化をひもとく鍵であり、それは数千万度の銀河団ガスから放射されるX線を分光し、輝線を調べることで分かる。

最近、日本のX線天文衛星『すざく』による衝突銀河団 Abell 399/401の連結領域 の観測から、太陽組成比の0.2倍の重元素が銀河団ガス中に含まれている 可能性が指摘された。今現在銀河の少ない銀河団の端っこに、ここまで大量の重元素が存在するのは不思議きわまりないことである。

この研究を含め銀河団のX線観測では、輝線強度から重元素量を推定する際に、ガスの 衝突電離平衡と電子ーイオン温度平衡を仮定する。これは銀河団内部で は平衡状態に 達する時間スケールが十分短いと考えられるだけ、ガスの密度が高いか らである。
しかしながら、我々はAbell 399/401の連結領域のような密度の 希薄な衝突加熱領域では 平衡状態に達していない可能性があることに注目している。もしそうで あれば、 平衡を仮定した解析結果は誤った重元素量を推定しかねない。

そこで我々はFIRSTシミュレータを用いて、重元素の衝突電離平 衡と電子ーイオン 温度平衡を仮定せず時間進化を解くダークマターとガスを含めた衝突銀 河団の 3次元数値流体実験を世界で初めて行い、その非平衡の重要性について 定量的な 議論を行った。その結果、連結領域において24階電離鉄の割合が 平衡値より10-20% 多いことや電子温度がガスの平均温度より数%低いことを明らか にした。そして 観測されるX線スペクトルを見積もった結果、鉄のK輝線強 度が衝突電離平衡に比べ 数%増強されていることなどを示した。本発表ではこれらの結果 について報告する。

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