以下に、招待講演のアブストラクトなどを紹介します。
本当に多くの方が聞きに来て下さいました。
どうもありがとうございました。
お二方とも、非常に面白いお話をしてくださいました。
いろいろな話が聞けて、特にM1の皆さんには
勉強になったのではないかと思われます。
1、タイトル:「アクリーション・ディスク入門」
講演者:嶺重 慎 氏 (京大 宇宙物理 助教授)
活動銀河核や低質量X線連星系は、強いX線ガンマ線放射源であることが知られている。
こういった高エネルギー放射は、どこで、どのようにして生まれるのだろうか。
アクリーションディスクのいわゆる標準モデルは、1973年に提唱された。この標準モ
デルでは、ディスクは軸対称で定常的、光学的に厚く黒体放射を出すといったことが仮定
されている。ガスのアクリーションに伴い解放された重力エネルギーは、粘性の働きによ
り熱エネルギーに転化されるが、そのエネルギーは効率よく輻射の形でディスクから出て
いく。この標準ディスクモデルは、天体物理学的円盤のダイナミックスや構造を理解する
上で多大な貢献をしてきた。しかしながら、計算された円盤温度は低く(数百万度以下)
活動銀河核やX線連星系からの高エネルギー放射は説明できない。
これにかわるモデルとして近年(再)注目されているのが、光学的に薄いアドベクション
優勢ディスクである。これはあまりにも密度が低いため、ほとんど輻射を出さないディス
クである。そのため、重力エネルギーの解放により発生した熱はガス流にのってそのまま
中心天体へと運ばれる(これをアドベクションという)。輻射冷却が効かないためディス
クはどんどん高温になり、幾何学的にふくらむ。
本講演では、この二つのディスクモデルを軸に、ディスクにまつわるさまざまな現象につ
いて解説する。
2、タイトル:「銀河系内高エネルギー・ジェット天体」
小谷 太郎 (理化学研究所 基礎科学特別研究員)
高エネルギー・ジェット天体とは高温プラズマを相対論的速度で噴射する珍しい
天体のことで、われわれの銀河系内に片手で数えられるほどしか見つかってない。
SS 433、
GRS 1915+105、
GRO J1655-40、
Cyg X-3
で全部である。
(他にも 1E 1740.7-2942、GRS 1758-258 など容疑者はいる。)
これらの天体がジェットを作るメカニズムはまだ実はよくわかっていない。
おそらくブラック・ホールか中性子星が中心にあって、伴星からの降着物質が
重力井戸に落ちる際、そのエネルギーを受けとった一部の物質がジェット流と
して吐き戻されているのであろう。
これらのジェット天体はさまざまな波長で観測されているが、X線はジェット
の根本や降着円盤内縁など、ジェットのまさに生成される部分から放射される
ため、X線観測によってジェット天体の正体に迫れると期待される。
この講演では特にX線観測衛星「あすか」を用いたジェット天体研究の成果に
ついて報告したい。
図 0 にあすか GIS による SS 433 のX線画像を示す。
あすかは SS 433 のジェットからのドップラー・シフトしたX線輝線のペアを
発見した。
以前はこうしたペアは見えないと考えられていたが、あすかの発見によりジェ
ットの高温領域 (X線ジェット)は予想以上に長いことが明らかになった。
3 年にわたるあすかの観測結果を総合的に解析した結果、X線ジェットの長さは
過去の推定値の 10 倍、ジェットの運動エネルギーは 1040 erg s-1
を超える莫大なものであることが判明した。
高エネルギー・ジェット天体が珍しいと書いたが、それは系内天体の話であって、
われわれの銀河系の外に目を向ければ
ジェット銀河 は多数見つかっている。
もちろんそうしたジェット銀河は系内ジェット天体にくらべてスケールもエネル
ギーも桁違いに上だが、
超光速運動、
細く絞られたジェット流、
歳差運動など、
類似点も多い。
これらX線連星系から活動銀河核まで何桁・何階層にもわたるジェット現象には、
はたして共通のメカニズムが働いているのだろうか。
だとすればゲテモノに属する系内ジェット天体の研究は、実は普遍的で基本的な
現象である宇宙ジェットの一方の端をおさえる意義がある。
また系内ジェットは近くにあって明るく見え、さらにスケールが小さいぶん系内
ジェットの変動のタイム・スケールは短く、ジェット現象の理解に適したターゲ
ットといえる。
ついでにいうと研究の進歩のタイム・スケールも短く、あすかによる SS 433 の
観測が始まったのは 1993 年、GRS 1915+105 と GRO J1655-40 のジェットが発見
されたのは 1994 年である。
講演ではこうした系内ジェット天体の cool な話題を紹介したい。

図0: あすか GIS で撮った SS 433 のX線画像 (1-10 keV)。
真中に見えるのがエンジン近傍。
発射直後のジェット物質は高温のためX線を出す。
左右に広がって見えるのは約 1020 cm 飛んだ後のジェット物質。
発射後 102-103 年経過したジェット物質が、
周囲の物質や磁場と相互作用して光っていると考えられている。
Q&A
Q:GRO J 1655-40の X 線フレアと電波フレアのピークは何日間くらいずれてい
たのですか?
A:GRO J1655-40 のX線フレアと電波フレアのピークは 20-40 日ずれています。
Q:VLBI 観測からある程度知られている GRO J 1655 のスケールと、『質量降着
が十分に起こってから電波が放出される』というモデルから、どのくらいの質
量降着が電波フレアを起こすために必要かという考察がある程度定量的にでき
ないだろうか
A:X線と電波のフレアのずれを「質量降着が多過ぎるとジェットはでない。した
がってX線は出るが、ジェット物質から放射される電波は見えない。ある程度質
量降着が減ると、ジェットが出るので電波も出る。」と説明する考えがありま
す。したがって、どのくらいの質量降着が電波フレアを起こすのに必要かとい
う定量的な議論は可能です。しかし、どうもジェットの生成は質量降着だけの
関数ではないらしく、また、X線も質量降着だけで決まるわけではありません。
X線と電波の線形な関係がぽんと見つかるというわけには行かないでしょう。
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