研究開発課題

核力、ハドロン力から構築されるエキゾチック原子核

研究開発課題責任者:東京大学 大塚 孝治

原子核は核力によって束縛されている多体系である。地球上の物質を構成する安定核の構造や励起を見るだけでは、核力が反映して現れる特徴的な多体構造の全貌は見えてこない。中性子数(N)と陽子数(Z)の比がアンバランスなエキゾチック核(不安定核)で初めて、安定核では隠されていた核力の性質や効果を解明することができる。核力は極めて複雑で豊かな内容を持ち、例えば強いテンソル力のように、他の物理系ではあまり議論されていない成分がいろいろとある。テンソル力の場合は、中性子数を十分に変えると原子核の殻構造を変え、魔法数までも変えてしまうことが最近分かった。このように、エキゾチック核では安定核で確立された描像やモデルが変わってしまう、パラダイムシフトが様々な局面で起こりつつある。2体力に加えて、3体力の効果がかなり大きい、という最近の知見は、多面的なパラダイムシフトの一例である。

このような状況下では、旧来型モデルの信頼性がゆらいでおり、それ故に新しい物理が活躍できるフロンティアである。フロンティアで頼りになるのは原理的なものに他ならないので、この場合には、核力にしっかりと依拠した多体理論計算がそれに相当する。それにより、新たに提案されるかもしれないモデルの有効性も判断できる。そこで、今後、原子核の多体構造論をひっぱり、展望を切り開いていくのは、模型的設定を最大限排除し、核力から多体系を作っていく理論計算と言って過言ではない。この型の研究には、第一原理的な手法が必要である。現在、かなりの程度まで第一原理的計算と言えるものには、グリーン関数モンテカルロ法(GFMC)計算、芯無し殻模型(No-Core Shell Model; NCSM)計算、などがあり、さらに最近のアプローチとして、結合クラスター(Coupled Cluster; CC)計算のリバイバルなど、多彩な試みがある。それらに共通なのは、計算が極めて大型化していることと、計算が納得のいく精度でできるのは質量数A=12位までか、あるいは閉殻核かその近傍に限られていることである。通常の意味での殻模型(Shell Model)は、第一原理計算とは呼ばれないが、そこで用いる有効核力はG行列理論などから導かれており、いわゆる第一原理計算と大きく異なる訳ではない。しかし、そのような微視的核力だけを用いた場合には実験を説明できないので、現象論的な補正を加えており、そのため第一原理計算とは呼ばれない。この現象論的な補正とは何に起因し、それを導くにはどうしたらいいか、というのは長年の課題であった。最近、核力の3体力にその起源がありそうであることが分かってきた。このように、原子核多体問題と核力は双方が発展しつつ、強く結びついて、これからの核物理を切り開く原動力となりつつある。 核力の精度をさらに向上させるには、近年、有効場の理論や、くりこみ群を用いてのlow-momentum相互作用、Similarity RGなどのアプローチが研究されており、発展が著しい。それらの計算自体、特に高次の項では大計算を要する。しかし、そのようなアプローチをいくら駆使して重要な点の多くは分かっても現象論的な部分が残り、完全な理解には格子QCD計算などを待たなければならない。これは本プロジェクトでの課題(1、2、3)が対象とする超大型計算であり、連携して研究が進む。

多体計算に関しては、第一原理的計算を酸素より重い原子核で、閉殻から離れた、いわゆるオープンシェル核でも行いたい。