概要

TDDFT(時間依存密度汎関数理論)によるフェルミオン多粒子系の量子ダイナミクスに関する研究を進めた。基礎方程式である時間依存コーン・シャム方程式に対する実時間・実空間計算法を発展させ、強い相互作用により束縛した物質である原子核、クーロン力で束縛した電子多体系である分子や固体など様々なフェルミ粒子多体系に対して、光と物質の相互作用に対する第一原理計算を行った。

これまでの成果

原子核の光応答に対する系統的計算

原子核の光応答に現れる巨大共鳴状態は、陽子と中性子の相対運動自由度に対する集団運動状態であり、原子核構造を理解する重要な手掛かりを与える。また、巨星の終末期に起こる超新星爆発では中性子捕獲による速い元素合成過程が進むが、その理解には中性子過剰核の光応答断面積が極めて重要である。

我々はPACS-CS及びT2K-Tsukubaを用い、軽−中重核に対する光応答の系統的計算を実施している。右図は80Se原子核に対する光応答計算の結果(左)を測定値(右)と比較したものである。原子核の変形に伴う2つのピークを持つ構造が見出される。下図はNiアイソトープに至る核種の光応答に対する系統的計算の結果を示す。

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高強度超短パルスレーザーと物質の相互作用に対する第一原理計算

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高強度超短パルスレーザーの電場強度と物質内で電子を束縛する電場強度が同程度になると、電子の様々な非線形ダイナミクスが見出される。我々はパルスレーザー電場を外場として含む時間依存コーン・シャム方程式を実時間で解き、電子とイオンのダイナミクスを第一原理から調べている。そのような研究の例として、誘電体の光絶縁破壊に対するシミュレーション結果を紹介する。

右図は1×1015W/cm2の強度を持つ40フェムト秒のパルスレーザーをダイアモンドに照射した際の電子ダイナミクスを示したものである。電場を示す図である(a)では照射したパルスレーザー(青線)と分極を含めた全電場(赤線)を比較している。始め両者は誘電率を係数として比例関係にあるが、レーザー電場が増すにつれ両者の位相がずれ始め、後半では外場と全電場が逆位相になっている。励起エネルギーを示す(b)、励起電子数を示す(c)では、位相のずれが見出される時刻で急速に励起が進んでいることが見出され、この時刻で光絶縁破壊が起きていることがわかる。

右下の図では、レーザーパルスから電子へのエネルギー移行を、レーザー強度の関数として示したものである。バンドギャップを超えて電子励起を起こすためには2光子の吸収が必要であり、低い強度の振る舞いは2光子吸収により理解できる。レーザー強度が7×1014W/cm2付近でエネルギー吸収の急速な増加が見出される。この強度が光絶縁破壊の閾強度の理論値を与えると考えられる。

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今後の計画

強い相互作用で束縛する原子核とクーロン相互作用で束縛する物質科学の両分野で、フェルミ多粒子系のダイナミクスに対して共通する計算科学的なアプローチをさらに発展させる。原子核物理学では、原子核の様々なエネルギー汎関数に関する適否の検討や、対相関を取り入れた記述を進め、実験的な発展の著しい不安定原子核の性質の解明を進める。物質科学では、パルス光による電子とイオンのダイナミクスを第一原理的に記述する枠組みを発展させ、フェムト秒からアト秒領域で起こる高次高調波発生、コヒーレントフォノン生成、クーロン爆発など、多様な電子ダイナミクスの解明を進める。

Center for Computational Sciences, University of Tsukuba