つくば宇宙フォーラム

第14

ブラックホールの鼓動からスピンを測定する

加藤 成晃 氏

JAXA


要旨

全ての銀河中心には,ブラックホールが存在すると考えられている。我々が住む天の川銀河の中心にある光源Sagittarius A* (略して Sgr A*:サジタリウスAスター)には,およそ太陽質量の400万倍のブラックホールがあると見積もられている。そして全ての星が自転しているように,ブラックホールも自転していると考えられる。しかしブラックホールの自転角運動量(スピン)を測定するのは容易ではない。なぜならブラックホール自体は事象の地平線で隔たれているからである。

とは云えブラックホールそのものが,全く検出できない訳ではない。その鍵を握るのが,ブラックホール周囲のガスが,ブラックホールに落ちる過程でできる円盤状の天体「降着円盤」である。降着円盤内のガスの運動は,ブラックホールの質量とスピンで決まる重力場に支配されている。逆にガスの運動が解明できれば,ブラックホールの質量とスピンを測定できるはずである。そこで Sgr A* の多波長観測によって発見された複数の光度変動の振動数から,Sgr A*に潜むブラックホールのスピンを測定してみた。さらに銀河系内にある太陽質量の十倍程度のブラックホールのスピンも測定してみると,驚くべきことに全てのスピンが質量にほとんど依らず,ある一定の値を持つことが分かった。

本講演では,ブラックホール周囲の振動現象とスピンの測定方法について発表し,ブラックホールのスピンを測定することの宇宙物理学的な意義と今後の展望について議論する。