Tsukuba Uchu Forum

83rd Uchu Forum

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宇宙論的銀河形成シミュレーションで探る遠方銀河の形態獲得プロセスと形成期銀河円盤の力学不安定性解析

Shigeki Inoue

KAVLI INSTITUTE FOR THE PHYSICS AND MATHEMATICS OF THE UNIVERSE


Abstract

本講演では,高解像度の宇宙論的銀河形成シミュレーションを用いて得られた新たな知見として,主にふたつの研究結果について紹介したい。 ひとつめは,主に遠方宇宙で観測されるMassive compact galaxyという天体の形成プロセスに関して話す。この銀河は近傍楕円銀河と似た形状を持ちながらも有意に小さなサイズを持っており,dry minor mergerで成長することで現在の楕円銀河に進化するのではないかと議論されている。我々は宇宙論的銀河形成シミュレーションを用いてこうした銀河の形成プロセスを探り,どのような物理メカニズムが働いているのかを調べた。結果として,Massive compact galaxiesの形成には「compaction」と我々が呼ぶ現象が一般的に伴っていることが分かった。これは形成初期に銀河ハロー中のガスが何らかのメカニズムによって急激に収縮し,中心に高密度な構造を作り出すプロセスである。その後,銀河は星形成を停止していく。(参考文献 Zolotov et al. 2015, MNRAS, 450, 2327) ふたつめは遠方宇宙で見られるクランピー円盤という,近傍円盤銀河の形成段階に相当するのではないかと考えられている天体について議論する。銀河は円盤銀河のような回転円盤を持ちながらも,円盤内に「クランプ」と呼ばれる巨大な星団を複数個保持しているという点で,近傍宇宙の一般的な円盤銀河とは異なっている。先行研究において,こうしたクランプの存在は形成期の銀河円盤のトゥームレ不安定の結果であるとされてきた。我々は同様のシミュレーションデータにトゥームレ不安定性解析を適応し,トゥームレQ値を調べた。その結果,クランプを形成している円盤においては,Q値は一般的に安定とされる値を示した。この結果は,これまでトゥームレ不安定とされてきた形成期銀河円盤は,必ずしもトゥームレ不安定ではなく,何か他の物理現象による非線形な効果でクランプの形成が生じていることを示唆している。(参考文献 Inoue et al. 2016, MNRAS, 456, 2052)

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